松坂、力でねじ伏せた16勝目の大きな意味

カルロス山崎

初完封の可能性も「素直に」交代を受け入れ

 今季初完投は、レッドソックス首脳陣の固い思惑によって消滅した。29日(現地時間)のホワイトソックス戦、松坂大輔は8回を投げ終えた時点で被安打2、無失点。「当然、次(9回)もいくつもり」だったが、ダッグアウトの階段を小走りで駆け降りようとした直前、テリー・フランコーナ監督が「お役ご免」の意味を込め、握手を求めた。このときの松坂のリアクションは実にユニークだった。一瞬、右手の動きを止めてから、まるで観念したかのように握手を交わし、その後はチームメートからハイタッチを求められた。

 「ティト(フランコーナ監督の愛称)が出てきた瞬間、終わりかと。ティトも、『まだ投げられるのは分かっているけれども』、とは言っていました。(交代の理由は)中4日とか、あとはきょうの試合の点差(8点差)ですね。最近は素直に(マウンドを)降りるようにしています。駄々をこねることもなく」とレッドソックスの勝ち頭は苦笑いを浮かべた。確かに昨季は、監督にボールを手渡すにあたって、体全体が『イヤイヤ』という動きを見せていたが、今季はグラブをパン!とたたいたり、大きく深呼吸したりして、自分の感情をうまくコントロールしているようだ。

 それにしても、完投どころか、自身メジャー初完封の可能性もあった。球数はまだ104。昨年のこの時期と比較すると、プレーオフ出場が安泰ではないチーム事情もあるだろうが、フランコーナ監督は「続投させる理由がみつからなかった」と、先発一番手の右腕に無理はさせない考えを示した。西武時代の松坂をよく知る日本のファンにしてみれば、スッキリしない降板に映ったかもしれないが、今後も中4日での登板が続く限り、8回を終えて90球くらいでないと、最終回のマウンドに立つことは難しいだろう。

狙い通りの内容でつかんだ勝利

 それにしても、強力なホワイトソックス打線に対して三塁を踏ませないストレート中心のピッチングは圧巻だった。松坂本人は「今季一番だったかどうかは分からない」と振り返ったが、バッテリーを組んだジェイソン・バリテック捕手は「今季一番の内容だった」と絶賛。初回の初球、オーランド・カブレラの放った右中間への強い打球をダイビングキャッチし、松坂の立ち上がりを後押ししたジェイコビー・エルスブリーも「ダイスケはシーズンを通していいピッチングを続けているが、特に昨夜(29日)は素晴らしかった。リズムも良かったし、ゲーム終盤になるにつれ、力強さが増していった」と称賛の言葉を並べた。

 これで16勝2敗。開幕前に「(15勝12敗だった)昨年の勝ち星より多く、負け数は少なく」と口にしていたラインをクリアしたが、今回の登板には大きなテーマがあった。

「ホワイトソックスとはこれから先、(プレーオフで)当たる可能性もあります。前回(8月9日、8回4安打1失点)も抑えましたけど、今回は力で抑えたかった。思っていてもなかなかできないことですが、そういう意味ではきょうはいい勝ち方ができたのではないでしょうか」

 力で抑えたかった理由は明確だ。

「相手に『なんとかできる(打てる)』ってことをなるべく思わせたくない。それがどのチームに対してもできるようになればいい」

 例えば全盛期のランディー・ジョンソン(現ダイヤモンドバックス)やペドロ・マルティネス(現メッツ)がそうだったように、対戦する前から相手に威圧感を与え、勝てるチャンスが少ない、簡単には打てないと思わせる投手はそういるものではない。そういう視点からみると、この日の松坂のピッチングは大きな意味を持つことになるかもしれない。残された公式戦での登板は5試合ほど。今後、どのように勝ち続けていくことができるのか。それによって松坂は相手から見てイヤな存在になり得るだろう。

<了>
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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