イチローの打席で浮かんだ福留不振の仮説 小グマのつぶやき from シカゴ vol.22

阿部太郎

福留が陥っている悪循環とは

ストライクゾーンのばらつきに苦戦しているかのような福留 【Getty Images/AFLO】

 メジャーリーグの球審の判定は、正直言って個人差が大きい。そして、アバウトなコールも多々ある。さっき同じコースでボールだっただろう、といった球をストライクと判定する場合も数知れず。リグレー・フィールドで横に座る先輩記者も、「今のはストライクだろぉ、なあ」とつぶやき、私も「確かにそうっすねぇ」と相づちを打つ。このシーンを今シーズン何回やったことか、20回は下らない。そして、もう一つ、メジャーは外角に広いと言われるが、内角のきわどいコースも意外とストライクに取る。これは福留にとって誤算だったかもしれない。

 福留のような、ボール球に手を出さずに失投を待つタイプにとって、球審の判定は打撃に大きな影響をおよぼすだろう。ボールと思って見送った球をストライクと判定される。「そこで手を出したら打撃が壊れる」と思っても、2ストライクと追い込まれれば、きわどい球に手を出さざるを得ない。結果、フォームをくずすという悪循環にはまり、なかなかスランプを抜けることができないように見える。

ばらつきのあるストライクゾーンに対応できるか

 福留のカウント別の打率をみても、やはり打者有利のヒッティングカウントで、相手投手がストライクを取りにくる1−2、1−3からの打率は3割を超えているのに対し、追い込まれた2ナッシングからは2割、2−1からは2割1分程度と低打率だ。ストライクゾーンを把握しきれていない福留にとって、追い込まれてからの打撃はいっそうつらくなるだろう。まだ4月、5月の段階では内角攻めが少なかったので、外角に目をつければよかったが、今はどの投手も執拗(しつよう)に内角を突いてくる。この内角がストライクと判定されると、どんどんと不利なカウントに陥ることになる。そして福留はストライクゾーンを広く持つ必要性が増し、「自分の場所」で打てない。そう考えられないか。

 さらに、地元記者の間では、今メジャーの審判が夏休みを取っている間マイナーの審判がメジャーを経験するために上がってくるケースを例に挙げ、それがやはり、ストライクゾーンを一定させない、審判によってばらつきが出てしまう要因となりうるという意見も出ている。

 もちろん、これはあくまでも仮説にすぎない。本人は直接的な要因を決して口に出さないし、「いい当たりがヒットにならないときもある」と、けむに巻くことも多い。ただ、この不振を乗り越えないと、「フークードーメー」の合唱がブーイングに変わってしまう日も遠くない。そして、そのブーイングすら聞けない状況に追いやられる可能性もある。
 プレーオフ、そして100年ぶりのワールドチャンピオンに向けて首位を走り続けるカブスの中で、苦悶(くもん)の表情を浮かべる「背番号1」の姿を見たくはないが。

<了>

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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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