イチローの打席で浮かんだ福留不振の仮説 小グマのつぶやき from シカゴ vol.22

阿部太郎

福留スランプの理由は

 星野JAPANの打撃不振は深刻なようだが、福留孝介の打撃もなかなか上向かない。

 6月下旬に左ふくらはぎの張りを訴えてから、打率はどんどんと下降線をたどり、ついに2割6分台に突入した。当初、ルー・ピネラ監督は疲れを強調し、福留を擁護する発言を繰り返していたが、ついに先日10日(現地時間)のカージナルス戦の試合前に「彼が打ち始めなければ、違うオプションを考える」と警笛を鳴らした。最近はまた、「彼はディフェンスの面で必要だから」とトーンダウンし、守備での重要性を強調してはいるが、福留の立つ瀬がなくなってきているのは事実である。福留=ディフェンシブプレーヤーでは納得もいかないだろう。

 開幕直後は「PATIENT(我慢強い)」な打者として紙面を飾っていたが、今は違った意味で「PATIENT」が必要になってきた。スタメン落ちという言葉もちらつき始め、現地の新聞には「カブスの懸念材料のトップ項目だ」という記事も掲載された。本人も「最初からうまくいくとは思っていない」と、ある程度の覚悟はしているが、ここまでの不振を予想していただろうか。

 そういった状況下で、福留のスランプの原因が何か、ここ1カ月ずっと頭の中を駆け巡っている。もちろんある程度、スランプがあるのはどの打者でも当たり前のことだが、こう続くとやはり何かしらの理由があるはず。疲れやけがとは別の何かが……。

「自分のストライクゾーン」で打つイチロー

 昨日、一昨日と、シカゴでイチローを取材する機会があった。そういえば開幕当初、「福留は“イチローと松井秀喜の中間”として現地のメディアに紹介されていたな」と思い出しながら、イチローの打席を観察していたが、実際に比べるとタイプは全然違う。イチローは、打席の中でとにかく攻撃的だ。少々のボール球でも打ちにいく。内角の厳しいコースは、彼特有の打ち方で左に持っていく。「福留だったら、あそこのボールは手を出さないだろうなぁ」などと思って見つめていると、ある仮説が浮かんできた。

 イチローはおそらく、球審のコールにあまり左右される打者ではない。それはあまり四球を好まない彼のスタイルからきているものなのかもしれないが、総じて最初からストライクゾーンを広く設定しているように思う。
 逆に福留は失投をじっくりと待つタイプ。2ストライクに追い込まれるまではゾーンを狭くして、追い込まれたらある程度ゾーンを「広く持ち直す」選手である。開幕戦でホームランを打ったときもこう言っていた。

「打てる場所というのは変わらない。そういう中で自分の場所っていうものをしっかりと、変にくずさないように。自分が思っているところと違うところに3球投げられたら『ごめんなさい』でいいです」

 ただ、開幕のときに「変にくずさないように」と注意していた「自分の場所」が、今はくずれているのだ。その要因の一つが、主審のコール、言い換えれば「ストライクゾーン」なのではないか、と思い当たったのである。イチローの打席を見ていて。

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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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