球児への提言――基本を怠らず全力プレーを=タジケンの高校野球観戦記
見ていて気持ちの良くない抗議や怠慢プレー
同じぐらい衝撃的だったのが、ある高校の主力選手が手にしていた白い皮手袋をベンチに投げつけたこと。三塁からのタッチアップが早いと判定され、得点が取り消されたことに対する抗議だった。気持ちは分からなくもないが、甲子園のベンチは観客席にも丸見え。見ていて気持ちのいいものではない。審判に対する反応でいえば、ハーフスイングを空振りと判定され三振すると、両手を広げて主審に「なぜ?」というポーズをつくる選手もいた。
プレーでは、相変わらず手を抜いて走る選手が多い。投手や捕手へのフライで一塁に走り出さなかった選手がいた。ともに、走者がいる場面。もちろん打球はフェアだ。落とせばチャンスは確実に拡大する。打ち損なった上に全力疾走するのは格好悪いと思うのかもしれないが、これは基本中の基本。徹底しなければいけない。1989年夏の甲子園で、その大会のスター選手だった上宮高の元木大介(元巨人)が八幡商高との試合で投手フライを打ち上げて走らず、おまけに投手が落球したためにベンチで山上烈監督に怒鳴られたことがあったが、怠慢プレーにはたとえ甲子園であっても監督は厳しい態度をとるべきではないか。
ある県大会では主力選手が内野ゴロで一塁ベースを踏まずにベンチへ帰ったのを目撃したが、甲子園でもベスト8に進出した高校の投手が一塁走者時に、次打者の投手ゴロで後ろを振り返りながらほとんど二塁に走らない場面があった。「あんな走塁をして怒られないの?」と聞くと、「ピッチャーはVIPです」との答え。炎天下でスタミナの消耗を避けるためと理解はできるが、もう少し見苦しくない程度にお願いしたい。
高校生にとって大切なものとは
だが、そんな時代だからこそ、もう一度、基礎や基本を見直してほしい。セカンド・町田友潤の超高校級の守備が目立った常葉菊川高は、ノックから内野手も外野手も絶対に高い送球をせず、低い送球を徹底していた。ある高校のセンターは強肩を披露しようと走者が走っていない本塁にダイレクト返球し、それがバックネットに到達。やらないでいい点を与えた場面があったが、常葉菊川高ではほぼそういうことはありえない。深い位置でのゴロや三塁線のゴロはすべて一塁へワンバウンド送球していたサードの前田隆一は、「そこに来たら、ワンバウンドで投げると決めてますから」と言っていた。ちなみに、倉敷商高戦では前田のワンバウンド送球をファーストの上嶋健司が落球。エラーが記録されたが、「あれはファーストが捕れない球じゃないです」と意にも介さなかった。それぐらい徹底している。今大会は中継につながず、無理にダイレクト返球をしたがために打者走者やほかの走者に余計な塁を与えるシーンが目立った。派手なプレーが目立つ常葉菊川高でも、基本的なことは決して怠っていないことを忘れないでほしい。
甲子園に出られない学校の中にも、素晴らしいチームはたくさんある。むしろ、「あの学校が出るなら、あそこの学校に出てほしかったなぁ……」と思うことの方が多いほどだ。甲子園は全国からの代表校が集う場。代表である以上、恥ずかしくない行動をするのは義務。もちろん、手を抜いたプレーは必要ない。
ことしも数々の素晴らしい試合を見せてもらった。何度も感動させてもらった。そんな高校生たちに感謝したい。
でも、だからこそ――。高校生には、もう一度何が大切かを考えてほしい。指導者の方々には、技術面以外のしっかりとした指導をお願いしたい。そして、最後にひとこと。この言葉を全国の高校球児や指導者、すべての高校野球に携わる方々に贈りたい。
『全力疾走 走る姿を見ればその人の心が分かる』
<了>
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