浜口京子が現役続行宣言「レスリングが大好き。もっとやりたい」=女子レスリングリポート
最悪の精神状態を救った姉・千春のひと言
「千春が負けたのを観て、もう戦いたくないと思いました」
北京五輪日本代表選手団のなかで、最も金メダル獲得確率の高い選手と言われてきた伊調馨(ALSOK綜合警備保障)は、試合前日そう思ったと言う。
そんな妹を救ったのは、姉の「自分が歩んできた道は金メダル」のひと言だった。
「吹っ切れた」馨は、アゼルバイジャンのオレシア・ザムラとの1回戦、米国のランディー・ミラーとの2回戦ともにフォール勝ち。格の違いを見せつけた。
だが、テレビ解説を務めたモントリオール五輪銅メダリスト高田裕司・日本レスリング協会専務理事は、「いいときの三分の一も動けてない。最悪の状態。あんな馨みたことがない」と評したが、それでも世界ナンバー1の安定度を誇る馨は負けなかった。 最大の山場となったカナダ、マルティン・ダグレニエとの準決勝。第1ピリオド0−0の同点からのクリンチは不利体勢にもかかわらず、馨はポイントを獲得。第2ピリオド0−1で失ったものの、第3ピリオドをもぎ取り、決勝戦へ進出した。
「カナダ戦は今までにないハードな戦い。試合後は歩けなくなるほどでしたが、諦めずに戦い、最後は身体が勝手に動いてくれました。千春が手を貸してくれたんだと思います」 難関を乗り切った馨は、フランス、リズ・ゴリョ・ルグランとの決勝戦、またしても0−0から不利なクリンチとなったが、冷静に守り切りポイントを奪うと、第2ピリオドは2−0とし、オリンピック2連覇を達成した。
「私まで負けたら、いつまでも二人で泣いていなければならないから」
だから、馨はがんばった。支えてくれた多くの人々、“金メダルをとれ!”と励ましてくれた両親のために戦い抜いた。だから、マットから降りると馨は涙が止まらなかった。 それでも、表彰式で金メダルを首にかけられると、泣きはらした顔はととびっきりの“カオリン・スマイル”に変わり、元気に語った。
「姉妹金メダルは叶いませんでしたが、姉妹でつかんだ金メダルです」
父のロンドン・コールに「やらせてください」
世界選手権・オリンピックと世界大会14年連続出場を果たした“クイーン・オブ・レスリング”浜口京子(ジャパンビバレッジ)は戦いを終えると、満面の笑顔でそう語った。首にかけられていたのは悲願の金メダルではなく、アテネに続きまたしても銅メダルだったが。
1回戦、難敵ロシアのエレナ・ペレペルキナを2−1で破った京子は、続く2回戦では昨年の世界選手権で敗退したカザフスタン、オルガ・ジェニベコワを倒して勝ち上がってきたブラジルのロサンヘラ・コンセイソンにフォール勝ちを収め、好調さをアピールした。
準決勝の相手は中国、王嬌だ。アテネ五輪準決勝で敗れた王旭に替わって出場してきた新鋭の対決は女子72キロ級の事実上の決勝戦となった。試合開始とともに、京子が勢いよく飛び出したが逆に返され2点を献上したが、そのままの体勢から反撃に転じ2点奪取。白熱した力と力の勝負は、その後追加点をあげた王が第1ピリオドを制し、第2ピリオドへ。バックを取られた京子が一瞬、腕を後ろに回したスキを捕らえられ、45秒フォール負けを喫した。
6時間後の3位決定戦までに、京子は立ち直ることができるか。アテネ五輪と同じ展開になったが、浜口家には“気合の伝道師”である父・アニマル浜口だけでなく、娘のためにすべてをかけて支え続けてきた気丈なる母、ともに戦ってきた弟、そして世界一の応援団“浅草軍団”がついていた。
京子は気持ちを入れ換え、昼休みを使って対戦相手を入念に研究。万全の体勢で米国、アリ・バーナードとの3位決定戦に臨むと、第1ピリオドから積極的に攻めまくり、引き落とし、崩しからバックにまわり3点連続で奪取。第2ピリオドに入ってからも攻撃の手を緩めず3−1で銅メダルを奪取するとともに、日本女子レスリングの2大会連続全階級メダル獲得の偉業を成し遂げた。
試合後、母と抱き合った京子は、父のロンドン・コールを聞くと笑い出し、笑顔で語った。
「レスリングが大好きですから、オリンピック前はそう思いませんでしたが、もっとやりたいです。やらせてください。ロンドン五輪というより、目の前の大会をひとつずつ戦っていきたいです」
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