五輪2連覇の吉田沙保里 視線は早くもロンドンへ=北京発 女子レスリングリポート
両手の拳を力いっぱい握りしめ、身体を丸めながら、女子55キロ級・吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)が全身全霊で決めた渾身のガッツポーズ。アテネ五輪金メダリストをもってしても、ここまでの戦いがいかに厳しいものであったか。その喜びの姿がすべてを物語っていた。
今年1月中国・太原で行われたワールドカップ、沙保里の連勝記録は119でストップした。普通に考えれば、沙保里にとって「119」は縁起の悪い不吉な数字だが、応援団は敢えてそれを旗印として、黄色のTシャツに染め込んだ。負けたことで学んだことを忘れず、新たな出発点としようとしたのだろうか。あるいは、積み重ねてきた偉大な記録を掲げることによって、失いかけていた自信を取り戻そうとしたのだろうか。
「夢は大きく 常に向上心」
Tシャツには、その言葉も添えられていた。
プレッシャーの中、勝ち取った2つめの金メダル
昨年の世界選手権決勝で倒したスウェーデンのイダ・ネレルとの1回戦。沙保里はガチで、はじけるような動きは全く観られなかった。しかしそれでも、世界ナンバー1の攻撃力を発揮し、第1ピリオド3−1、第2ピリオド4−0と圧勝した。
続く2回戦、アテネ五輪前から戦い続けるライバル、ロシアのナタリア・ゴルツにいきなり引き落とされてバックを奪われリードを許すも、少しも慌てることなく、ハイクラッチを極めて2−1と逆転。第2ピリオドではニアフォールを奪い4−0で下した。
勝ち進み、本来の動きを取り戻した沙保里は、準決勝、アテネ五輪決勝で戦ったカナダのトーニャ・バービークを2−0、6−0と完封すると、仕上げは決勝戦で地元・中国の許利(利+くさかんむり)にスピードに加え、パワーの差も見せつける豪快なフォール勝ち。
競泳の北島康介(日本コカ・コーラ)に続き、オリンピック2連覇を達成した。試合後、マット上で高々舞った沙保里のバク転は、オリンピックの歴史を語る貴重な映像としていつまでも映し続けられるだろう。日の丸を上げ、君が代を鳴り響かせると、沙保里は早くもロンドンでのオリンピック3連覇を力強く宣言した。
姉妹同時金メダルの夢散るも晴れやかな表情
表彰式。千春は4年前のアテネでは、銀メダルをかけられても憮然とした表情を崩さなかった。ところが、今回は同じ銀メダルでも全く違っていた。つかんだメダルをいとおしむように見つめ、ホッとしたような落ち着いた笑顔を浮かべた。表彰台を降りて館内を一周するときには、誇らしげに、晴れやかな表情でメダルを観客席へ突き出した。
千春が妹・馨と二人で、そして応援してくれるすべての仲間たちとともに突き進んできた“姉妹同時金メダル”という史上初の快挙の夢は散った。だが、千春は明日もう一度、今度は馨とともに戦いに挑まなければならないが、その決戦を前に次にように語った。
「妹といっしょに輝かしいレスリングの道を歩んでこれたことを、私は誇りに思います。勝負が終わった後はメダルに色がついてしまいますが、私は自分のレスリング人生が最高だったと思っているので、このメダルは金色に輝いて見えます。今までがんばってきた自分に感謝したいです。レスリングを始めてからずっと応援してきてくれたみなさん、本当にありがとうございました」
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