浜口京子を金メダルへ導く「心・技・体」=女子レスリング連載第1回
4年前のアテネ五輪では金2・銀1・銅1個に終わったが、日本レスリング協会の富山英明強化委員長は「女子全階級で金メダルを狙う」と4個の金メダル獲得を宣言。日本中の期待を背負って世界に臨む4人の“闘う女神”たち。北京五輪まで4回に渡り彼女たちのメダルへの思いに迫ります。
まず第1回目はアテネのリベンジに燃える浜口京子。
北京はレスリング人生の「集大成」
レスリング女子72キロ級日本代表・浜口京子 (ジャパンビバレッジ) は、青春の全てを捧げてきたレスリングの「集大成」と決意した北京での決戦に向けて、優しい笑顔でそう語った。
あの灼熱のアテネ五輪から4年。今回、五輪連続出場となる選手、レスリングに限らず、日本代表選手団に限らず、世界各国・地域から集まる全てのアスリートの中で、京子ほど強くなった選手はいないだろう。
京子が口にした“完成”というの言葉は、北京へのキップをつかむために乗り越えてきた数々の苦難、そして流した涙が、今、京子の自信となっている表れである。
電光掲示板の表示ミスなど悲運が重り準決勝で敗れたものの、最後まで闘争心を失わず、感“銅”のメダルをつかみとったアテネ五輪後、京子は何度も世界チャンピオン返り咲きに王手をかけた。
だが、あとほんの少し、わずかなところで願いは叶わなかった。顔面4カ所を複雑骨折させられた狂気の頭突き(06年世界選手権)、国際レスリング連盟の審判長も即座に認めながら覆らなかった世紀の誤審(07年世界選手権)。どんなに頑張っても自分の力ではどうすることもできない過酷な運命に翻ろうされながらも、京子は迷わず、立ち止まらず、愛するレスリングに打ち込んできた。
今なら誰とやっても負ける気はしません!
あの“果てなき山脈の如く”続いた艱難辛苦を乗り越えてきた京子以上に、強い「心」を持つ選手はいない。
アニマル浜口こと父・平吾との二人三脚にスパーリングパートナーとして弟・剛史が加わり、さらに五輪メダル2個を持つ赤石光生が専任コーチとなり、日本レスリング協会の強化コーチ全員が、担当の枠を超えて“日本の宝”である京子の「技」を磨いた。
京子がレスリングを始めたのは14歳。アテネに続き、北京五輪でもともに戦う伊調千春・馨、吉田沙保里 (以上、ALSOK綜合警備保障) が物心ついた頃からマットに上がっていたのに比べ、かなり遅いスタートだが、その分だけ京子には五輪選手となった後にも長い、長い“伸びシロ”が残っていた。
「レスリングがわかりかけてきた」京子は、基本を忘れず反復練習を繰返しながらも、乾ききったスポンジが勢いよく水を吸い込むように次々と新しい技術を身につけていった。
そして、「体」。京子はレスリングを始める前、プロレスを引退し、ボディービルのジムを開いていた父と壮絶なトレーニングによってに肉体を改造した。階級変更後の1997年、京子が過酷な増量作戦に耐えて75キロ級にアップし世界選手権初優勝を飾ったとき、その鍛え抜かれた体を見て、ライバル国のコーチたちたちが「ドーピングだ! 」と叫んだというエピソードが残っているが、まさに日本人離れした強じんな肉体だ。ここ数年、日本人選手の身体能力が飛躍的に向上してきたが、柔道でもラグビー、サッカー、野球……どの競技でも、スピートやテクニックに頼らず、パワーだけで外国人選手をねじ伏せることができるのは京子ぐらいだろう。
「力に勝る技なし」
勝負の鬼である父は今もそう断言し、娘を絞り上げる。
2度目の五輪だからか。いや、全てを経験し、やり抜き、自分が成長したことを誰よりも実感しているからだろう。京子は気負うことなく、落ち着いて語った。
「心・技・体、全てが最高潮に高まってきています。ほかの女子レスリング日本代表3選手に比べ、オリンピック出場を決めるまで半年も余計にかかってしまいましたが、遠回りしたことも自分にとってはプラスになったと思います。北京は、自分でも楽しみです。手応えもあります。今なら誰とやっても負ける気はしません! 」
2008年8月17日、浜口京子は“女王のレスリング”を貫き、悲願の五輪金メダルに輝く。
<北京五輪 女子レスリング日程>
8月16日(土):女子48kg、55kg級決勝
8月17日(日):女子63kg、72kg級決勝
「京子! いざ! 北京」
涙のぶんだけ、強くなれる! 世界で戦い続けた14年間。父・アニマル浜口、日本一の肝っ玉母さん・初枝さんの熱血家族の応援を中心に、アテネ五輪準決勝から北京五輪出場権獲得までの1307日を綴った涙と感動のドキュメント。「お母さん、北京で“美酒”呑みましょう! アテネオリンピック前、京子さんは『一番メダルに近い選手』と言われていましたが、今回の北京オリンピックでは世界中から集まってくる全てのアスリートの中で『一番涙をたくさん流してきた選手』。彼女が流したいっぱいの涙があふれたお酒は、まだちょっと苦いかもしれませんが、8月17日には京子さんの“笑顔千両”でおいしくなっていますよね」 (あとがき) より。
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