トルコが手にした最高の誇り=ドイツ 3−2 トルコ
最後まで劇的だったトルコの戦い
ドイツ戦後に辞任を明言したテリム。“皇帝”にも理想を実現した満足感があったのか 【REUTERS】
“らしくない”トルコは後半に入っても続き、試合をコントロールした。しかし79分、ドイツにゴールを奪われる。ペースを握りながらもゴールを許すという、“らしさ”が顔をのぞかせた。だが、ここからが周囲が期待するトルコの真骨頂。試合終了間際の86分、同点に追いついたのだ。再び逆転劇が起るのではないか。そんな期待を抱かせるゴールだったが、90分に決勝ゴールを奪ったのはドイツの方だった。
終了間際の決勝ゴールという自分たちのお株を奪われる形でドイツに敗れ、大会を去ることになったトルコ。しかし、この試合でもこれまで見せてきた“不思議な可能性”を十分に発揮した。この劇的な敗戦も、今大会のトルコを象徴するような派手なトルコらしい終わりだったのかもしれない。
良い試合内容の果ての敗北は、トルコ人にとっては悔しい結果だったはずだ。しかし、試合後にサポーターが見せた態度が、どれだけこのチームに満足しているかは一目瞭然(りょうぜん)だった。
「トルコはお前たちを誇りに感じる」
スタジアムに駆け付けたトルコサポーターから、チームに対して称賛のコールが沸き上がった。今大会のトルコが見せた戦いは、トルコ人が誇りに満ち溢れるほどの素晴らしいものだったのだ。
サポーターだけではない。テリムに対して厳しい批判を繰り返してきたメディアも、トルコの戦いに「ありがとう」という感謝の言葉でその激闘をたたえた。実は、大会中にもテリムは激しい口調でメディア批判を繰り返してきたのだが、そうした軋轢(あつれき)はもはやなかった。
最後まで何が起こるか分からないという、サッカーの楽しさを再認識するような信じ難い試合を繰り返し、トルコサッカー史上、初めてユーロでベスト4という結果を残したトルコに誰もが納得しているのである。
トルコ成功の立役者なったテリムも、決勝をあと一歩のところで逃した悔しさをにじませつつも、今大会が充実したものであったことを振り返った。
「この国の国民が、われわれを誇りに思ってくれることを願う。今日の試合でプレーした選手、けがや警告でプレーできなかった選手、すべての選手を誇りに思う。彼らとともに、ここにいることができて最高の誇りを感じている。私はここまでやることができたし、やるべきことをやった。大きな可能性でヨーロッパのクラブに戻ることになるだろう」
“皇帝”と呼ばれるテリムには似合わない形で「辞任」を明言したのも、これ以上ない結果を成し遂げ、「見ている人が喜びを得るサッカー」という理想を実現したという満足感があるからだろう。
トルコにとってユーロ2008は、多くの人たちが代表を誇りに思い、満足感を得た大会になったのである。
<了>