「テリミズム」が引き起こしたドラマ=トルコ 3−2 チェコ

渡邉将之

劇的な逆転勝利でトルコが決勝トーナメント進出

2試合連続の劇的な逆転勝利でトルコが決勝トーナメントに進出した 【Getty Images/AFLO】

 試合はスイス戦に続き、ロスタイムのニハトのゴールで、トルコが劇的な逆転勝利を飾った。テリムとメディアの最終決戦は、結果的にテリムに軍配が上がった。しかし、内容は褒められたものではなかった。前半は何もできずにチェコに試合を支配され、ポルトガル戦を思い起こさせるような試合展開だった。

「チェコは組織的で、フィジカルが強い。高さのある選手が多く、サイドからの攻撃とセットプレーには十分気をつけなければならない」
 テリムはチェコの特徴についてこのように分析していた。しかし前半は、テリムが分析した相手の長所すべてが出た試合展開だった。
 前半34分の失点は、サイドを崩されて、コラーに頭で合わされたもの。攻撃でもチェコの組織的な守備にパスをつなぐことができず、結局はロングボールを放り込む以外に策はなかった。ロングボールを放り込んでも、体格で劣るニハト、セミヒの両FWはチェコ守備陣に高さで勝つことができず、ただ時間だけが過ぎていった。

 前半のテリムは、自身の分析を全く生かすことができなかった。テリムは試合後にこの事実を認める発言をしつつも、強気な姿勢を強調した。
「試合で良いスタートを切ることができなかったが、前半は0−1でも納得していた。ハーフタイムにこれを解決できると考えていた」
 この言葉通り、トルコは後半に入り、まったく違うチームになった。交代で中盤を厚くしたことでパスがつながるようになり、試合の主導権を握り返したのだった。

 しかし、試合を支配するトルコだったが、攻めながらも得点を奪うことができず、逆にチェコに追加点を許してしまった。リードされ、攻撃を仕掛けてカウンターからさらに失点を喫す、トルコの典型的な負けパターン。いつものトルコならここで終わるのだが、この試合では違った。後半30分にアルダが1点を返すと、勢いに乗りチェコを圧倒。42分にニハトがチェフのミスを見逃さず同点弾を決めると、44分には再びニハトが決勝点を決めて逆転劇は終わった。

テリムでなければこの逆転劇はなかった

 試合後は、逆転劇にトルコメディアもわれを忘れて歓喜に沸いた。戦前に爆発していたテリムへの不満はほとんど聞こえてこなかった。
 唯一、試合後の記者会見でトルコ人の記者から「前半の出来が悪かったのはなぜか? なぜ後半のプレーを前半からすることができなかったのか?」という質問がテリムに投げ掛けられたが、テリムは「後半はゴールを奪われたにもかかわらず、良いプレーができた」と質問には答えずに、ショートパスをつないでサイドから崩すトルコらしいサッカーを出せた後半への満足感だけを口にした。

 勝因として「選手のあきらめない気持ち」しか挙げることができなかったテリムは、結局のところ「なぜ?」という疑問の答えを見つけることができないのかもしれない。確かに、選手の勝利への執念は見事だった。この気持ちがなければ、チェコという老かいなチーム相手に0−2から逆転することは不可能だっただろう。

 戦前とは違い、試合後に浮かれるエルハン氏は、テリムについてこのように評価した。
「確かに前半は希望が持てないものだったが、後半に良いプレーを見せて勝利を収めた。前半から良いプレーができなかったのは、テリムだからだ。前半から良かったらテリムではないのかもしれないし、テリムでなければこの逆転劇はなかったはずだ」

 ブリュックナー監督は前日の会見で、トルコについてこのように話している。
「トルコは本当に毎試合スタメンが違っている。相手によって違ったプレー、戦術はあるもので、これは驚かされる状況ではない。だが、対策をとるつもりだ」
 名将も、トルコのころころと変わる戦術、メンバーに対して警戒していたのだ。

 これらの言葉から推測すると、カズム氏が指摘する「テリミズム」は批判されるべきことではなく、誰にも理解できないという点で称賛されるべきことなのかもしれない。そして、「テリミズム」がトルコにある限り、何が起るか分からないドラマのようなサッカーが続くのである。

「敵をあざむくにはまずは味方から」
 高笑いをしながら、こんな言葉をはくテリムの声が聞こえてきそうだ。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ、法政大学卒業。2003年からトルコに滞在し、トルコサッカーに漬かる日々を過ごす。ベシクタシュの本当のサポーターになるべく、ベシクタシュが拠点を構えるベシクタシュ地区に滞在し、日々サポーターと親交を深めている

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