オランダの快進撃を支える一体感=オランダ 4−1 フランス

中田徹

ウイニングチーム・ネバー・チェンジ

カイトの先制ゴールを喜ぶオランイェの選手たち。チームの一体感が快進撃を支えている 【Getty Images/AFLO】

「歴代最高の勝利のひとつ」(『アルヘメーン・ダッハブラット』紙)。
 ユーロ(欧州選手権)2008初戦で世界チャンピオンのイタリアを3−0と粉砕し、オランダは沸きに沸いた。

 翌日、キャンプ地ローザンヌの練習場は、「オランダ 3−0 イタリア」と得点板が表示された。観客席に陣取った数百人のサポーターは、ウォーミングアップでピッチの周りを走るイレブンに「カンピユーレン! カンピユーレン!(チャンピオン)」と叫び、選手をねぎらう。
 FWフンテラールとDFメルヒオットは、負傷で別メニューのトレーニングを行っていたが、フランス戦には間に合わないと思われていたロッベンの回復が早く、全体練習にも復帰した。

「これまでにない一体感がチームにはある。食事はみんなでまとまって取り、食後は全員がコーヒーを楽しむ。監督も残っているんだ。そこではみんなが忌憚(きたん)なくサッカーについて自分の意見を述べ合っている」
 とスナイデルは自身のウェブサイトでチームの雰囲気の良さを述べた。オランダはこのまま一気に欧州チャンピオンに上り詰めようと燃えている。
 13日のフランス戦を前に、練習場の得点板は「オランダ 0−0 アウエーチーム」と変えられた。「イタリア戦のことを浮かれ続けてはいられないぞ」。そんな意志がこもっていた。“ウイニングチーム・ネバー・チェンジ”。この日のフランス戦、オランダはイタリア戦とまったく同じ布陣で戦った。

ファン・バステン監督の攻めの交代策

 オランダはイタリア戦の好調を持続させた。9分にはファン・デル・ファールトのコーナーキックから、カイトがヘディングシュートを決めて早くも先制した。
 その後もオランダは2点目を目指して攻め続けた。しかしフランスも、戦術的には守備にアクセントを置いているが、攻撃のタレントはピッチの上にそろっている。23分、ゴブーがマタイセンをかわしてシュートを放ったあたりから、徐々にフランスも挽回(ばんかい)する意欲を見せ始めた。34分、ゴブーのミドルシュートを皮切りに、反撃の合図が上がった。今大会、フランスは120分を過ぎてようやく、本気で点を取りにいく姿勢を示し始めたのだ。
 しかしフランスは、ストライカー陣の不振が痛かった。大会前からアンリ、アネルカの2トップが爆発せず、イタリア戦でもベンゼマ、アネルカが不発。途中出場のゴミスも親善試合での活躍のようにはいかなかった。オランダ戦では負傷明けのアンリを起用したが、無人のゴールへのシュートを外すなど、いまひとつの出来。フランスはシュートを雨あられとオランダゴールに向かって放つも、ノーゴールの時間が続いた。

 オランダは苦しい時間が続いた。だが、守りに回って苦しい時間帯にこそ、ファン・バステン監督は攻めの交代策を選んだ。後半開始からロッベン、55分にはファン・ペルシを投入。守りを固めることを考えず、カウンターで電光石火の攻撃をハメるべく、選手をピッチに送り込んだのだ。
 その策はファン・ペルシ投入から4分後、早くも実る。ロッベンの快速ドリブルから、ファーサイドへ駆け込んだファン・ペルシへクロスが通り、見事なボレーシュートでフランスを突き離した。この瞬間、ファン・バステン監督は猛烈な勢いでベンチを飛び出し、ファン・デル・ファールト、ファン・ブロンクホルストとジャンプをしながら抱き合ってゴールを喜んだ。

 ファン・バステンは、イタリア戦でもオランダが2点目のゴールを挙げた際、大きくジャンプをして喜びの感情をあらわにした。これまでオランダの指揮官はどこか選手と距離をとっているところがあったが、今大会では実にいい関係を保っていることがうかがわれ、選手の得点もわがことのようにはしゃいでいる。先に紹介した、スナイデルが言う“チームの一体感”は本物なのだろう。だから、守勢に回ってもオランダは我慢して耐えることができ、カウンターの瞬間にも選手の意思が統一されている。

 フランスは71分、アンリがようやく1点を返したが、その直後、オランダはキックオフから、ノーホイッスルゴールをロッベンが挙げて3−1。この瞬間、勝負は決まったと言っていいだろう。ロスタイムには、この2試合で素晴らしいくさび役となっているファン・ニステルローイのボールのためから、オランダは攻撃を開始。最後はスナイデルが「スナイデルゾーン」とも呼べるペナルティーエリアのすぐ外から鮮やかなミドルシュートを決め、オランダが4−1とフランスに大勝した。

オランイェの大きなアドバンテージ

欧州制覇を目指すオランダはどこまでつき進むのか 【Getty Images/AFLO】

 これでオランダは世界チャンピオンのイタリア、バイスチャンピオン(準優勝)のフランスを大差で粉砕した。チームのみならず、オランダ人もますます欧州制覇に向けて盛り上がってくるだろう。イタリア戦ではベルンの町に4万人のオランダ人が、フランス戦では5万人のオランダ人が詰めかけたのである(ちなみに、オランダ対フランスの観客は30777人)。“死の組”とうたわれたグループCで、あっさりと2試合で首位突破を決定し、もう1試合をベルンで、それから準々決勝をバーゼルで戦うオランダ。チケットを持たないオランダ人がオランイェ(オランダ代表の愛称)をサポートするためにどれだけやって来るか、誰も見当がつかないだろう。

 オランダが欧州チャンピオンになるための条件は、ローザンヌにとどまることだった。なぜならオランダ人は異常なまでに“枕を替えて寝るのが苦手”な国民性なのだ。オランダ人はスポーツのみならず、ビジネスでも世界中で活躍しているから、どこでも生活できる。それは確かだが、そこの土地でも住み家を離れてホテルで泊まるのを極端に嫌う。今のオランイェにとって、ローザンヌのキャンプ地が彼らの住み家なのだ。

「ワールドカップは試合会場が変わるから、試合の前日はホテルに泊まらないといけなかった。しかしユーロはグループリーグの会場が変わらないからいいね」
 とオランダ代表の選手も言う。ちなみにオランダはフランス戦前日、本来なら試合会場のベルンで練習をするべきところをあえてローザンヌで練習し、当日移動を実施している。
 そんなキャラクターを持ったオランダ人にとって、枕を替えずに準々決勝、準決勝をローザンヌに近いバーゼルで戦えるのは大きなアドバンテージがあるのである。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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