中村礼子、2度目の五輪へ 成長を支えたコーチとのきずな

萩原智子

アテネ後は悔しさと喜びの繰り返しだった

アテネ五輪で見事銅メダルを獲得した中村。北京五輪の舞台でどんな結果を見せてくれるのか 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】

 アテネ五輪後の中村選手は、国際大会で連続してメダルを獲得し、順調にステップアップしていきました。周りから見ていると、順風満帆な4年間だったように見えます。しかし彼女にとっては、悔しさと喜びの繰り返しでした。

 アテネ五輪の翌年に行われた2005年世界水泳では、200m背泳ぎで銅メダルを獲得。当然、国内でも負けなしでした。しかし、06年の日本選手権で波乱が起こります。彼女の得意種目でもある200m背泳ぎで、ライバルの伊藤華英選手に敗れ、さらに自身の保持していた日本記録を破られてしまったのです。
 当時の中村選手は、「ショックというか、衝撃でした」とコメントしています。しかしこの衝撃的な出来事が、彼女をまた一歩成長させてくれたのです。同年8月にカナダ・ビクトリアで行われたパンパシフィック選手権で屈辱を晴らし、4月に樹立された日本記録を塗り替えて優勝。その時に見せた彼女のはにかんだような、誇らしいような笑顔は今でも忘れられません。06年は、悔しさと喜びを味わう貴重な経験をし、また大きく成長を遂げました。

 大きな壁を乗り越えた中村選手は、07年世界水泳の100m、200m背泳ぎで銅メダルを獲得し、共に日本記録をマークしました。勢いに乗った彼女は、世界水泳直後に行われた日本選手権でも、50m、100m共に、世界水泳で樹立した自らの記録を上回る日本新記録で優勝します。
 しかしその裏で、世界のライバルたちは、さらに驚異的な記録をマークしていました。中村選手は世界に遅れをとっている事実をきちんと認識し、同年8月に行われた世界競泳で、世界のトップに並ぶ記録を目指していました。結果的に記録を更新することはできず、翌年の北京五輪に向けて、大きな不安を残したのです。

「もう一度、五輪で勝負がしたい!」

 北京五輪へ向けて練習が厳しくなる中で、「本気で水泳と向き合えない時期もありました」と中村選手は話しています。そんな時に支えとなったのが、やはり指導者の存在でした。
 平井コーチは揺れ動く彼女の気持ちを察し、「本気で五輪で勝負するのか? しないのか?」と叱咤激励したそうです。大事な時期に適切なアドバイスを受けることによって、選手はもう一度、自分自身と向き合い、気持ちを整理することができるのです。目標をしっかりと設定し、練習をすることによって、そこで初めて自信が生まれます。平井コーチの言葉を受けた中村選手は自分自身と向き合い、「もう一度、五輪で勝負したい!」と強く覚悟を決めたのでしょう。
 選手と指導者。最後の最後は、両者のコミュニケーションが、大きな鍵を握っているのかもしれません。信頼関係から始まる選手と指導者のあるべき姿を二人から教えてもらったような気がしました。

 今年4月に行われた北京五輪代表選考会の100m、200m背泳ぎで代表権を獲得し、再び夢の舞台で戦う権利を得た中村選手。今シーズンの世界ランキングでは、現在(6月13日現在)、100mで8位、200mで4位につけていますが、世界の記録が大幅に伸びている中で、「今の記録では戦えない。もっと記録を伸ばして、五輪で戦いたい」と話しています。4年前、五輪決勝の舞台で銅メダルを獲得している彼女は、「決勝に残った8人にチャンスがある。チャンスをものにしたい」と、ランキングだけでは語れない五輪での戦い方を体と心で熟知しています。
 北島選手が以前、「五輪は、プレッシャー以上のプレッシャーがかかる」とコメントしていましたが、そのプレッシャーは、決勝に残った8人が感じ、乗り越えなければならない壁でもあります。中村選手は4年前に、メダルを獲得するための過程、心理状況を一度経験しています。この経験が、北京の舞台でも、彼女に自信を与えてくれるでしょう。

 アテネ五輪後の4年間の悔しさと喜び――この経験が、北京五輪の舞台で彼女を支えてくれることは確かです。そして迷ったとき、不安に陥ったときに道を照らしてくれる、信頼できる指導者と共に、2度目の五輪の舞台へ挑みます。
 彼女に、もう迷いはありません。

<了>

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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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