ポルトガル勝利の“影の立役者”=チェコ 1−3 ポルトガル
12年前の対決
ポルトガルの先制ゴールを決めたデコ(左)。苦しい場面での冷静さが光った 【REUTERS】
ここで、時計の針を12年前に戻してみたい。1996年の夏、ポルトガルは84年のフランス大会以来、12年ぶりにユーロ本大会出場を決めた。89年、91年のワールドユース(現U−20ワールドカップ)2連覇という偉業の立役者となった、パウロ・ソウザ、ルイ・コスタ、フィーゴら“黄金世代”と呼ばれる20代前半の選手たちが中盤で流れるような美しいパスサッカーを展開し、順調にグループリーグを突破した。
そして準々決勝で対戦したのが、この日の対戦相手でもあるチェコだった。ポルトガルはこの日も試合を支配しながら、チェコの「8」番によって放たれた技ありのループシュート一発に沈んだ。タイムアップの笛が鳴った瞬間、バーミンガム(イングランド)のピッチに泣き崩れる背番号「10」番の後ろ姿。この残像が今でも脳裏に焼きついている。
96年大会のベストゴールとも言われる、このゴールを決めたチェコの「8」番がカレル・ポボルスキだった。ポルトガルの背番号「10」番は、言うまでもなくルイ・コスタである。
ちなみにポボルスキはこの時のゴールが世界に認められ、その年マンチェスター・ユナイテッドへ移籍。ベッカムとのポジション争いに敗れたものの、2年後には、ベンフィカで”エクスプレス・トレイン”(特急列車)と呼ばれるスピード溢れるプレースタイルを完成させることとなる。自分のキャリアの転機となったゴールを決めた対戦国であるポルトガルのクラブで大成したのは、何とも皮肉な話である。
中盤での主導権争いの行方は……
そして今、チェコ対ポルトガル戦を終えて考えてみると、ポボルスキの分析は「半分当たり、半分外れ」ということになる。
この試合が始まる前、ポイントは中盤での主導権争いだと思っていた。ロシツキを負傷で欠いたチェコのゲームを組み立てるのは、ボランチのガラセク。トップは当然、「ただデカイだけ」ではなくて、「世界レベルの胸トラップのテクニックを持った巨神」であるヤン・コラーを使ってくると予想していた。
こう考えた根拠には、今年の2月にリスボンで行われたUEFAカップ・ラウンド32の第1戦、ベンフィカ対ニュルンベルク戦という、一つの「テストパターン」があった。このときのニュルンベルクのゲームメーカーはガラセクで、トップのストライカーはコラー。ベンフィカは1−0で勝利したものの、このチェコ代表2人のコンビネーションプレーに、非常に手を焼いた印象が残っている。中盤で運動量豊富に献身的なプレーを見せるガラセクは不気味だ。この攻撃の起点となるであろう、「4」番のベテランMFをしっかり抑えることが、ポルトガルのグループリーグ2戦目のポイントとなると読んでいたのだ。
ポルトガルは初戦のトルコ戦のようには、中盤で簡単にボールを持たせてもらえないだろう。ボランチのプティだけではなく、前線の高い位置にいるデコやジョアン・モウティーニョも、守備に専念する時間帯が多くなるだろうと勝手に思い込んでいた。よって、お互いに様子を見ながらリスクを冒さない攻撃での凡戦、両者痛み分けで「勝ち点1」ずつ上積みといった試合になるのでは、との予想を立てていた。
同点に追いつかれて失速
ポルトガルは開始8分、クリスティアーノ・ロナウドとヌーノ・ゴメスのコンビネーションプレーから、こぼれ球をデコが押し込み、電光石火の先制ゴールを挙げた。そこから、“予想に反して”高い位置で中盤を支配する展開となる。
特に右ウィングのシマゥン・サブローサが中央に張り出し、ジョアン・モウティーニョが右サイドに“逃げて”ポジションチェンジを繰り返すというプレーは、少なからずチェコの守備陣を動揺させたようだ。しかし、ジョアン・モウティーニョにとっては、所属クラブのスポルティング・リスボンで、トップ下のアルゼンチンMFのロマニョーリと毎試合繰り返しているプレーだ。
この2人に左ウィングのロナウドとデコを加えた“ポルトガルのカルテット”は、面白いように中盤をかき回した。しかし、少し調子に乗って前掛かりになりすぎたのか、先制ゴールから9分後、セットプレーからチェコのシオンコに鮮やかなヘディングゴールを決められ、あっさり同点に追いつかれた。
その後、ポルトガルは徐々に失速していく。流れの中からゴールを奪われる気はしなかったが、ボールポゼッションでは圧倒するポルトガルは明らかに攻めあぐね、ボールを持たされる悪いパターンにはまり込んでいった。