ポルトガル勝利の“影の立役者”=チェコ 1−3 ポルトガル

鰐部哲也/Tetsuya Wanibe

12年前の対決

ポルトガルの先制ゴールを決めたデコ(左)。苦しい場面での冷静さが光った 【REUTERS】

 ユーロ(欧州選手権)2008が開幕した当初は、連日の冷たい雨で冬のような寒さだったスイスも、ようやく初夏の6月らしい強い陽差しが戻ってきた。11日のチェコ対ポルトガルの一戦は、陽の光がまばゆい18時キックオフ。湿度もなく絶好のサッカー観戦日和の中での試合となった。
 
 ここで、時計の針を12年前に戻してみたい。1996年の夏、ポルトガルは84年のフランス大会以来、12年ぶりにユーロ本大会出場を決めた。89年、91年のワールドユース(現U−20ワールドカップ)2連覇という偉業の立役者となった、パウロ・ソウザ、ルイ・コスタ、フィーゴら“黄金世代”と呼ばれる20代前半の選手たちが中盤で流れるような美しいパスサッカーを展開し、順調にグループリーグを突破した。
 そして準々決勝で対戦したのが、この日の対戦相手でもあるチェコだった。ポルトガルはこの日も試合を支配しながら、チェコの「8」番によって放たれた技ありのループシュート一発に沈んだ。タイムアップの笛が鳴った瞬間、バーミンガム(イングランド)のピッチに泣き崩れる背番号「10」番の後ろ姿。この残像が今でも脳裏に焼きついている。

 96年大会のベストゴールとも言われる、このゴールを決めたチェコの「8」番がカレル・ポボルスキだった。ポルトガルの背番号「10」番は、言うまでもなくルイ・コスタである。
 ちなみにポボルスキはこの時のゴールが世界に認められ、その年マンチェスター・ユナイテッドへ移籍。ベッカムとのポジション争いに敗れたものの、2年後には、ベンフィカで”エクスプレス・トレイン”(特急列車)と呼ばれるスピード溢れるプレースタイルを完成させることとなる。自分のキャリアの転機となったゴールを決めた対戦国であるポルトガルのクラブで大成したのは、何とも皮肉な話である。

中盤での主導権争いの行方は……

 チェコ代表の歴代キャップ数1位の記録を持つポボルスキは、試合の2日前、ポルトガルの国内メディアに対し、「1996年に僕ら(チェコ)が戦ったポルトガルはもっと組織的にスムーズだったけど、今は個人主義に走ったチームになっているようだ」と、今大会のポルトガル代表についての印象を語った。
 そして今、チェコ対ポルトガル戦を終えて考えてみると、ポボルスキの分析は「半分当たり、半分外れ」ということになる。

 この試合が始まる前、ポイントは中盤での主導権争いだと思っていた。ロシツキを負傷で欠いたチェコのゲームを組み立てるのは、ボランチのガラセク。トップは当然、「ただデカイだけ」ではなくて、「世界レベルの胸トラップのテクニックを持った巨神」であるヤン・コラーを使ってくると予想していた。
 こう考えた根拠には、今年の2月にリスボンで行われたUEFAカップ・ラウンド32の第1戦、ベンフィカ対ニュルンベルク戦という、一つの「テストパターン」があった。このときのニュルンベルクのゲームメーカーはガラセクで、トップのストライカーはコラー。ベンフィカは1−0で勝利したものの、このチェコ代表2人のコンビネーションプレーに、非常に手を焼いた印象が残っている。中盤で運動量豊富に献身的なプレーを見せるガラセクは不気味だ。この攻撃の起点となるであろう、「4」番のベテランMFをしっかり抑えることが、ポルトガルのグループリーグ2戦目のポイントとなると読んでいたのだ。

 ポルトガルは初戦のトルコ戦のようには、中盤で簡単にボールを持たせてもらえないだろう。ボランチのプティだけではなく、前線の高い位置にいるデコやジョアン・モウティーニョも、守備に専念する時間帯が多くなるだろうと勝手に思い込んでいた。よって、お互いに様子を見ながらリスクを冒さない攻撃での凡戦、両者痛み分けで「勝ち点1」ずつ上積みといった試合になるのでは、との予想を立てていた。

同点に追いつかれて失速

 しかし蓋を開けてみたら、チェコのトップはコラーではなくミラン・バロシュ。このスタメン起用が後々、ポルトガルにとって奏功する結果となる。
 ポルトガルは開始8分、クリスティアーノ・ロナウドとヌーノ・ゴメスのコンビネーションプレーから、こぼれ球をデコが押し込み、電光石火の先制ゴールを挙げた。そこから、“予想に反して”高い位置で中盤を支配する展開となる。

 特に右ウィングのシマゥン・サブローサが中央に張り出し、ジョアン・モウティーニョが右サイドに“逃げて”ポジションチェンジを繰り返すというプレーは、少なからずチェコの守備陣を動揺させたようだ。しかし、ジョアン・モウティーニョにとっては、所属クラブのスポルティング・リスボンで、トップ下のアルゼンチンMFのロマニョーリと毎試合繰り返しているプレーだ。
 この2人に左ウィングのロナウドとデコを加えた“ポルトガルのカルテット”は、面白いように中盤をかき回した。しかし、少し調子に乗って前掛かりになりすぎたのか、先制ゴールから9分後、セットプレーからチェコのシオンコに鮮やかなヘディングゴールを決められ、あっさり同点に追いつかれた。
 その後、ポルトガルは徐々に失速していく。流れの中からゴールを奪われる気はしなかったが、ボールポゼッションでは圧倒するポルトガルは明らかに攻めあぐね、ボールを持たされる悪いパターンにはまり込んでいった。

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著者プロフィール

1972年生まれ、三重県出身。ポルトガルの首都リスボン在住。2004年から約4年間ポルトガルに滞在し、ポルトガルサッカー情報を日本に発信。その後、日本に帰国して約2年半、故郷の四日市市でポルトガル語の通訳として公務員生活を送るものの、“第二の祖国”、ポルトガルへの思慕強く、2011年3月よりポルトガルでサッカージャーナリスト活動を再開した。ブログ「ポルトガル“F”の魂」にて現地での取材観戦記なども発信中である。ポルトガルスポーツジャーナリスト協会(CNID)会員、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員

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