オランダ、イタリア戦勝利のエッセンス=オランダ 3−0 イタリア

中田徹

勝負を分けたファン・ニステルローイの先制点

 オランダがスピード、フィジカル、メンタル、テクニック、戦術のすべてでイタリアを凌駕(りょうが)したのは確かだが、それでも試合中に勝負のモメント(瞬間)は必ずある。この試合の場合、オフサイドのように見えたファン・ニステルローイのゴールが認められ、26分にオランダが先制したことだろう。
 ファン・ニステルローイも「自分はオフサイドだと思った」と振り返り、喜びの輪の中に加わったデ・ヨンもしきりに副審に顔を向け、ゴールを取り消されないか気にしていたほどだった。オーロラビジョンのリプレー画像も、ファン・ニステルローイがオフサイドポジションに立っていたことを示し、イタリアサポーターは大ブーイングだった。

 しかし、これはオンサイド。ファン・ニステルローイは語る。
「シュートを打った時は気づかなかったけど、あの時パヌッチがゴールラインの後ろにいたんだ。それでオフサイドはなくなっていた」

 攻撃の選手と違って、守備の選手はラインの外に立っていたり、プレーに関与しなくても“石”にはなれない。負傷で倒れていても、最後尾にいるDFの選手はそこがオフサイドラインなのである。このような事例は、日本でも1983年の全国高校サッカー選手権の準決勝、韮崎対守山戦であった。このときはDFの選手がタッチライン際で倒れていたのだが、「負傷で倒れているDFがいる場合、どこかオフサイドラインになるか」という議論が起きた。

 当時と今とでは、オフサイドのレギュレーションは違うが、それでもDFは常にオフサイドラインの頭数に入ってしまうことに変わりはない。オランダサッカー協会(KNBV)の規則委員長も試合後すぐに、「ファン・ニステルローイのシュートはルール上、間違いなくゴール」と解説している。しかし、ピッチの上で戦っているイタリアの選手も、これは腑に落ちなかっただろう。「1発目のゴールが利いたね!」。ファン・バステン監督は無邪気に笑ったが、イタリアの精神的ダメージは大きく、ハーフタイムに入るまで全く元気がないままだった。
 オランダの攻撃のすごさは2点目(スナイデル)、3点目(ファン・ブロンクホルスト)のカウンターに集約されているが、ここではいったん止めておこう。

 それにしても見どころの多い試合で、ファン・デル・ファールトとピルロの一対一も見ごたえ十分だった。前半はファン・デル・ファールトの完勝。しかし後半はピルロが大きく盛り返した。「この対決はラファエル(ファン・デル・ファールト)にとってもチャレンジだった」と厳しい真剣勝負の中、ファン・バステン監督も若干は楽しむ余裕があったようだ。

 ファン・ニステルローイは、「4〜5日前にイタリア戦の準備は終えていた。完ぺきな準備だった。それでも、こんな結果になるとは思ってもみなかった。こういうサッカーができるチームでプレーするのは最高だね!」と、これまでのファン・バステン監督との確執を忘れて充実の表情。
「この勝利はチームの偉業」とファン・バステン監督も一枚岩になった“オランイェ”(オランダ代表)に手応えをつかんだ。そして続けた。
「勝ったことはうれしい。しかしまだ、われわれはファーストステップを刻んだだけ」
 オランダの目標はイタリアに勝つことではなく、欧州チャンピオンになることなのである。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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