レ・ブルーはインスピレーションを失ったのか?=ルーマニア 0−0 フランス

木村かや子

未知数の若者たち

 創造性という面でジダンの代わりとなれそうなのはナスリとベンアルファだったが、あいにく双方がまだ非常に若い。ベンアルファが23人の遠征メンバーから外されたとき、世論から強い反対意見は出なかったのだが、私個人としては、複雑な心境だった。

 膨大な才能を持つが、いまだ自分のためにプレーしている感じを消しきれないベンアルファは、多少なりともメディアの批判を受けていた。独りでドリブル突破しようとしてつぶされるため、実況のコメンテーターが「自己中心的過ぎる。パスをしろ!」と盛んに叫び、正直、見ていてかなりイライラする。反面、ユーロ予選の1試合でポジショニングの悪さをテュラムに叱咤(しった)された直後に、独創的なゴールを呼ぶアシストをしたのもベンアルファなのだ。彼には、「何をしでかすか分からない」という言葉が良く似合う。しかしその大胆さが裏目に出ることも少なくない。要するに、波のあるこの21歳は、基本的に保守的なドメネクにとって、あまりに若すぎ、まだ独演家すぎ、不安定過ぎたのである。

 ベンアルファよりずっとチームプレーヤーのナスリは23人に含まれたが、シーズンが終わったばかりの状態ではやや精彩を欠いていた。プレー・ビジョンに優れた彼は、対ルーマニア戦でのわずか15分あまりのプレー時間の間に、いい位置にいたゴミスの呼び込みをしっかり見て何度かパスを送っていたが、アタッカーをどつきまくる頑健で抜け目ないルーマニアのディフェンスを崩すまでには至らなかった。彼にもやはり、成長するための時間が必要なように思える。

 トゥラランは非常に献身的な選手だ。しかしディフェンスラインが堅固で、彼より一枚上のマケレレも守備的であるだけに、イタリアでいえばガットゥーゾの役を務める選手が2人では多すぎる。その点ビエイラが入れば、攻撃面への加勢という意味で、多様性が加えられる気がするのだが、悲しいかな彼の調子は未知数だ。

 そう、ここまでのこのフランス代表は、ひらめきを欠いている。もちろん、ギリシャのようにプレーメーカーなしに勝ったチームもあるが、過去に『シャンパン・サッカー』という新語を生んだフランスが、インスピレーションなしに欧州や世界を制したことはない。余談だが、TGV(高速鉄道)やコンコルドを生んだフランス人は、一般的に機械的作業では不完全だが、発案の妙では秀でている(考えてみればチャンピオンズリーグやバロンドールを発案したのもフランス人だ)。勝つにしろ負けるにしろ、それがフランスのベストを引き出す持ち味なのだ。

賢者ギ・ルーは語る

 対ルーマニア戦後、「急に暑くなった上に、相手のプレーを阻もうとする相手とプレーするのは常に難しい。時にビッグチーム相手にプレーする方が容易なことがある。少なくとも、試合開始の瞬間から気合が入るしね。オランダはもっと“プレー”するから、われわれにとってはよりやりやすいよ」とトゥラランは言った。そうだろうか? メディアが口から出そうになる批判をのみ込んでいるのは、よろよろのグループラウンドの戦いから見事に飛翔したW杯の例があるからなのだ。

 フランス・メディアが露骨な批判を避ける中、元オセールの名将で、歯に衣を着せない語り口で人気のあるサッカー賢者、ギ・ルーだけが、この初戦を待たずしてはっきりと言いにくいことを口にしていた。
「フランスは優勝候補だと言っている者も多いが、私は、これらの人々が信じているほど最後の方まで勝ち進めないんじゃないかと思っている。『あまりに年を取り過ぎた選手』が多過ぎ、『あまりに若過ぎる選手』も多過ぎる。通常このレベルでは、その中間の年齢の選手が違いを生み出すものなんだ。このチームには、その年齢の選手があまりいない」

 ルーマニアのピツルカ監督も、試合後「フランスはもしかすると、もはやある者たちが考えているようなレベルではないのかもしれないよ。今日、それを確認した」とにくにくしい言葉を吐いた。それは皆が心に抱いている疑問ではあるのだが、少なくとも新星が何かをしでかすに十分なだけの時間を稼いでほしい、という願望もある。所詮、予想は外れるためにあり、いずれにせよ大会はまだ始まったばかりなのだ。

<了>

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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