「得点王」より「優勝トロフィー」を!=C・ロナウド、今季を最高の形にするために

鰐部哲也/Tetsuya Wanibe

「C・ロナウド」から「ロナウド」へ?

準優勝に終わった4年前のユーロ決勝で流した涙を胸に、悲願の優勝を目指すロナウド 【Getty Images/AFLO】

 本来のポルトガル人に対する呼称なら、クリスティアーノ・アベイロが正しい。父親が尊敬していた、1985年当時のアメリカ合衆国第40代大統領のロナルド・レーガンにちなんでつけられた「ロナウド」という名前はセカンドネームである。
 しかし、今や「ロナウド」と言えば、間違いなくクリスティアーノ・ロナウドのことを指す。元ブラジル代表でワールドカップ(W杯)の最多得点記録を持つ“フェノメノ”(=怪物)ことロナウドは、スキャンダラスな話題以外でその名が人々の口に上ることも少なくなった。ユーロ(欧州選手権)2008で得点王を獲得する活躍を見せようものなら、これまで区別して使ってきた「C・ロナウド」や「クリロナ」という呼び名も、今後使われなくなっていくかもしれない。

 今シーズンのロナウドは、プレミアシップでアラン・シアラーの持つ1シーズン最多得点タイ記録の31ゴールで得点王に、チャンピオンズリーグ(CL)でも、念願の“ビッグイヤー”(優勝トロフィー)を獲得したファイナルのチェルシー戦で、豪快なヘディングシュートで先制点をたたき込み、8ゴールで大会得点王に輝いた。公式試合で48試合出場、42ゴールをマーク。ゴール決定率は実に8割7分5厘という驚異的な数字におよぶ。つまり、10試合のうち8試合以上は必ずゴールを決めてくるわけで、すっかり「ドリブラー」から「ゴールゲッター」としてのイメージが定着した。7日に開幕するユーロでも当然、ポルトガル代表での“ロナウドのゴール”にどうしても期待が高まるのだが……。

 自国開催となった4年前のユーロ2004の開幕戦、後半6分に自身がペナルティーエリア内のファウルで与えたPKを、ギリシャのバシナスに決められたロナウドは、終了間際のロスタイム3分に、そのミスを帳消しにするかのような豪快なヘディングゴールをたたき込んで一矢を報いた。これが、ロナウドのポルトガル代表初ゴールである。当時、弱冠19歳。
 以来、ロナウドはポルトガル代表でも着実にゴールを積み重ねてきた。代表通算55試合で20ゴール。とはいえ、マンチェスター・ユナイテッドで見せる“爆発的”な得点力を発揮し切れてはいない。確かに、今回のユーロ予選でも13試合で8ゴールとチーム内では最もゴールを決めているが、“セレソン”(代表)では昨年10月のカザフスタン戦を最後に7カ月以上、4試合ゴールから遠ざかっており、「ロナウド本来の(現時点での)世界最高のプレー」が100パーセント引き出されているとは言い難い。

ポルトガル代表のロナウド依存体質

 現在のポルトガル代表では、ロナウドの役割が多過ぎると言える。ユーロ本大会に臨むポルトガルは、招集選手23人の平均年齢が26.4歳と若いチームである。その中でもロナウドは23歳とさらに若い世代に入る。
 しかし、11歳のロナウドをマデイラ島から発掘してきたスポルティングのスカウト、アウレリオ・ペレイラ氏の言葉を借りるならば「ロナウドはポルトガル代表の土台であり、基礎となる選手だが、現在はほかの選手、首脳陣が彼にすべての役割を要求している」というのが現状のようだ。つまり、「ロナウドにボールを預ければ何とかしてくれるのではないか?」「ロナウドがクラブ(ユナイテッド)と同じく、毎試合ゴールを決めてくれるのではないか?」という完全なロナウドに対する依存体質。今、国内メディアでは「Ronaldependencia(ロナウド次第)」(注)という造語も使われているほどである。

 今大会の予選では、ロナウドにキャプテンマークを託される試合が終盤になるにつれて増えていった。昨年10月以降の4試合中3試合で主将を務め、今年2月のイタリア戦でもキャプテンマークを巻いている。
 ロナウドが最初にポルトガル代表のキャプテンとなったのは2007年2月6日、ロンドンのエミレーツスタジアムで行われたブラジル戦。試合前日に22歳の誕生日を迎えたばかりの選手が、ポルトガル代表の“カピタオン”(キャプテン)の大役を任されたのは、もちろん史上最年少の記録。しかし、実はこの時、ロナウドがキャプテンを務めることになった裏には、この試合の4日前に監督のスコラーリの下を訪れ、「ロンドンの試合では、クリスティアーノにキャプテンマークを巻かせてやってくれ。彼は(アーセナルのファンから)試合中ずっとブーイングを受けるに違いないが、これは私の“最期”のお願いだ」という言葉を残して、翌日にこの世を去った当時のFPF(ポルトガルサッカー協会)副会長、カルロス・シルヴァの遺言という“美談”が隠されている。

 しかし一方で、代表キャプテンについて前述のペレイラ氏は「彼はメンタル面でとても強じんなものを持っているし、素質という面でふさわしいとは思うが、時期尚早だね。大体、スポルティング時代にも一度もキャプテンをやらせたことはなかったし、彼自身がやりたいと言ったことは一度もなかった」と語っている。
 さらに「キャプテンというのはチームをひとつにまとめるために、自分のプレーだけを考えていればいいというわけではなく、頭の中にはチームやチームメートのことを考えるスペースを空けておかなければいけない。試合中も常に。例えば“セレソン”でのフィーゴがそうであったようにね」と付け加えた。

「キャプテンの重圧」からの解放

 代表でロナウドに一番求められているのは、現在“世界一”と言われているプレーのクオリティーなのかもしれない。そのクオリティーを十二分に引き出すためには、(キャプテンの)“責任感”という余計なプレッシャーを取り除く必要がある。
 ロナウド自身もポルトガル代表の記者会見で「僕のキャプテンシーが物足りないって? 僕は何でもできる“マシーン”じゃないんだ。僕も人間だからね」と、事あるごとに悩める心情を吐露している。

 このようなポルトガル代表の現状を見るにつけ、「ロナウドはユーロでは活躍できないのでは?」と危惧(きぐ)していた。だが、先月下旬にポルトガル北中部の田舎町、ビゼウで行われた本大会前最後の国内合宿では、監督のスコラーリをはじめポルトガル代表の首脳陣がこれらの問題をきっちりとクリアしてきた。
 ポルトガル代表のキャプテンには、ユーロ通算5ゴールを記録し、ポルトガル代表として国際舞台での経験も豊富なヌーノ・ゴメスを、また副主将に、ディフェンスリーダーのリカルド・カルバーリョを正式に指名。まずはロナウドから「キャプテンの重圧」を取り除いたのだ。

 そして、モスクワで行われたCL決勝への参加を考慮して、代表合流が遅れたロナウドには「練習早退」を許可した。戦術確認のミニゲームも前半のみ、1人だけ“あがって”ベンチで後半の戦況を見詰めるといった光景が多く見られた。
 実際、5月23日にリスボン空港に到着した時も、ロナウドは「現時点では本当に疲れがたまっている。早く回復することを願うよ」とコメント。翌24日に合宿地のビゼウで行われた記者会見に臨んだ時も、「ユーロでポルトガル代表に貢献できるパフォーマンスを見せるには程遠いコンディション。徐々に力強いプレーを見せていくつもりだ」と語っている。

(※)「Ronaldependencia」:「Ronaldo」と「dependencia(次第、依存という意味)」を組み合わせた、メディアが作ったポルトガル語の造語。

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著者プロフィール

1972年生まれ、三重県出身。ポルトガルの首都リスボン在住。2004年から約4年間ポルトガルに滞在し、ポルトガルサッカー情報を日本に発信。その後、日本に帰国して約2年半、故郷の四日市市でポルトガル語の通訳として公務員生活を送るものの、“第二の祖国”、ポルトガルへの思慕強く、2011年3月よりポルトガルでサッカージャーナリスト活動を再開した。ブログ「ポルトガル“F”の魂」にて現地での取材観戦記なども発信中である。ポルトガルスポーツジャーナリスト協会(CNID)会員、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員

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