「得点王」より「優勝トロフィー」を!=C・ロナウド、今季を最高の形にするために

鰐部哲也/Tetsuya Wanibe

FKこそが、ロナウドが活躍できるかどうかのバロメーター

国民の期待を一身に背負うロナウドはポルトガル代表のエースとしてチームを優勝へ導けるか 【Photo:なかしまだいすけ/アフロ】

 この合宿中、ロナウドが念入りに何度も何度も確認を行っていたのが、フリーキック(FK)の練習だった。今季、ロナウドが身につけた「新たな武器」こそが、このFKである。ロナウドのFKがゴールネットを揺らしたのを私が初めてライブで見たのは、2005年6月4日、ドイツW杯予選のポルトガル対スロバキアの試合だった。ユーロ2004後に、一度は代表引退を発表したフィーゴの代表復帰試合でもあったこの試合で、“フィーゴから譲られる形で”ミドルレンジのFKを決めたロナウド。ピッチすれすれの一直線の弾道を見送った私は呆気に取られ、「こいつ、こんな“飛び道具”も持っているんだな」と感心したものである。
 ロナウドは自身のFKについて「“ロケット”って呼んでほしい。ロナウドの“ロケット”ってみんなが話題にしてくれているのを聞くのが好きなんだ」と語っており、ポルトガル国内ではロナウドのFKを形容するときは、わざわざ英語で「ROCKET」と表現している。

 ロナウドは自らのFKをこう説明する。
「FKが成功したときには、僕がイメージしているボールを蹴るときの体勢と、ボールに対する足のポジションがうまく連係したということ。止まったボールに向かって走っていく瞬間から、ボールに対してどのように足を当て、振り切るかイメージはいつも決まっているんだ。そのイメージ通りのFKを蹴るために、僕はまず両肩をせり上げ、ボールを見て、その後にゴールマウスを見る。ゴールキーパーは視界には入っていない。これが、僕がFKを蹴る前に集中するための“儀式”さ」

 現在、ポルトガル代表で理学療法士を務めるアントニオ・ガスパール氏は、ロナウドの“ロケット”の秘訣(ひけつ)についてこう語る。
「ロナウドのテクニックとフィジカルの強さが素晴らしいことは誰しも知るところだが、彼がFKを蹴るときに使う“コントロール・モーター(原動力)”と深い関係があるという予測が成り立つと思う。その“モーター”とは足、特に太ももの筋肉繊維がロナウドの場合“普通ではなく”発達しているということだ。この部分の筋肉繊維を発達させることは非常に難しい。だからロナウドは、生まれながらにして“例外的”にこの部分が発達する素質があったということ。今、普通の人とは違う“モーター”を備えることができたのは、もちろん彼のトレーニングのたまものだがね」

 本大会前最後のテストマッチとなったグルジア戦、試合前のウォーミングアップでひとりチームメートの輪から外れ、黙々とFKの練習を行っていたロナウド。試合では、前半41分に得たFKのチャンスに、惜しくもクロスバーをたたいてしまったが、この「相手DFに邪魔されることなく、止まったボールを押し込める唯一のチャンス」であるFKこそが、ユーロ本大会でロナウドが活躍できるかどうかのバロメーターであり、一番の見どころになると言っていいだろう。

「ゴール」を期待しない方がいい

 ポルトガル代表の通算最多47ゴールの記録を持つパウレタは「代表では、どうしてロナウドをウイングに固定するんだい。彼は(僕のような)“9番”タイプの選手じゃないけど、味方と連動してゴールを奪うことのできる『ポンタ・デ・ランサ(=センターFW)』だよ。しかも彼の場合、持って生まれたゴールゲッターの資質が十分備わっているんだから」とロナウドについて語っている。しかし、ロナウドの役割はあくまでも「点取り屋」ではなく、スコラーリがユーロ本番前に組織的なチームとして形にしてきた「4−2−3−1」というシステムにおける「ひとつの駒」であるにすぎない。

 ロナウド自身も「僕は代表でもセンターFWとしてプレーする自信はあるけど、今の代表には3人の優秀なセンターFW(ヌーノ・ゴメス、ウーゴ・アルメイダ、エルデル・ポスティガ)がいるからね。1トップというシステムから考えても、僕がFWでプレーするのは逆にチームとして良くないと思う。だから僕は、代表ではウイングでプレーするほうがいいんだ」と自分の役割を分かっているようだ。

 7日に開幕するユーロ本大会、ロナウドに対して「ゴール」を期待しない方がいい。それでも彼は観客を魅了するようなプレーをきっと見せ、輝くはずだから。
「僕が(ユナイテッドでのように)ゴールを量産できるとは約束できない。僕がこの大会で欲しいのは『得点王』のタイトルじゃなくて、『ユーロ優勝』のタイトルなんだから」とロナウドも語っているように……。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、三重県出身。ポルトガルの首都リスボン在住。2004年から約4年間ポルトガルに滞在し、ポルトガルサッカー情報を日本に発信。その後、日本に帰国して約2年半、故郷の四日市市でポルトガル語の通訳として公務員生活を送るものの、“第二の祖国”、ポルトガルへの思慕強く、2011年3月よりポルトガルでサッカージャーナリスト活動を再開した。ブログ「ポルトガル“F”の魂」にて現地での取材観戦記なども発信中である。ポルトガルスポーツジャーナリスト協会(CNID)会員、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員

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