『股旅フットボール』 地域リーグから見たJリーグ「百年構想」の光と影

構成:スポーツナビ
 日本全国を9つのブロックに分けて、それぞれの地域を舞台に戦う“地域リーグ”。華やかさとは無縁のその場所には、さまざまな事情を抱えながら、サッカーに夢を見る人々の“いま”が散りばめられている。そんな彼らの日常を追い続け、4月に書籍『股旅フットボール』(東邦出版)を出版したノンフィクションライター・宇都宮徹壱氏に、知られざる地域リーグの光と影について、また、この本を出版した経緯について話をうかがった。私たちが普段、意識することのない日本サッカーの姿が、この本から見えてくるのではないだろうか。

地域リーグに興味を持ち始めたきっかけは天皇杯

『股旅フットボール 地域リーグから見たJリーグ「百年構想」の光と影』 宇都宮徹壱 著/東邦出版/定価:1500円(税込)/ISBN:978-4-8094-0695-9 【東邦出版】

――地域リーグは、J1、J2、JFLの下に位置する、4部のカテゴリーのリーグ戦です。知名度、戦力、資金力の面ではJリーグのクラブと大きな差があるわけですが、そのような地域リーグに興味を持ったきっかけを教えてください

 地域リーグに興味を持ち始めたきっかけは天皇杯です。2004年から毎年スポーツナビで『天皇杯漫遊記』を連載しています。天皇杯の取材は、準々決勝あたりから取材を始めるジャーナリストが多いのですが、私は1回戦から見るようになったんです。1回戦というのは、高校や大学、地域リーグに所属しているクラブが出てきます。つまり、都道府県の代表同士の戦いなんです。

 日本全国には、Jリーグのクラブがない都道府県がたくさんあります。そういった地域には、どのようなサッカー文化があるのかと単純に興味を持ちました。東京で生活していると、なかなか地域発のニュースは入ってきません。私が最初にそれに気づいたのは、2003年にアルビレックス新潟がJ2からJ1に昇格しようとしている時期でした。当時、何度か新潟まで取材に行きましたけど、毎回ホームゲームには3、4万人は入っていたと思います。しかし、東京に住んでいると、なかなか情報として入ってきませんでした。
 今でこそ、インターネットを通して、地域の新聞やファンのブログを通じて情報を得ることができますが、以前は新幹線で2、3時間の場所にある地域の情報がなかなか入ってこなかったのです。「情報のねじれ現象」とでも言いますか。それは、サッカーに対してもすごく感じました。
 もともと私の好奇心の持ち方は、あまり情報がない、ほとんど取り上げられたことがないテーマを突き詰めて、その面白さを自分なりに取材して伝えるのがスタンスなんです。それは前著『ディナモ・フットボール』(みすず書房)や、初著『幻のサッカー王国』(頸草書房)の時もそうでした。まあ、モノ好きといってしまえば、それまでなんですが(笑)。

地域全体が同じ目線で上を目指している

名古屋退団後、地域リーグでプレーした森山泰行は、FC岐阜をJ2に引き上げた 【(C)宇都宮徹壱】

――実際に日本の地域リーグを取材してみて、彼らのサッカーから何を感じましたか?

 始めた当初は、よく分からない世界でしたから、クラブを運営しているスタッフやサポーター、選手にいろいろと話を聞いていくところからスタートしました。この本ではグルージャ盛岡から始まって、V・ファーレン長崎、ファジアーノ岡山と、取材した順番で収録してありますけれど、最初の盛岡、長崎くらいまではずっと手探り状態でした。ただ、取材を重ねるうちに感じたことは、私はこの本のなかでずっと「サッカー地政学」という言い方をしていますが、その都道府県、地域なりのサッカーの成り立ち、そして短いけれど歴史があるということです。その土地その土地で、サッカーの風景の構成要素が違って見えるんです。私はこれを「日本サッカーのミクロコスモ」と呼んでいるんですが、ピッチを離れたところで取材していると、そういったものがどんどん見えてくるわけです。これはちょっと面白いぞ、と手応えを感じましたね。

――日本の各地域が持っている風土、気質がサッカーにも表れているわけですね

 そう、それともうひとつ意識したのが、時代の流れです。Jリーグ将来構想委員会というものが、J2を今後どうするかというテーマで協議した結果、2010年までに18チームに増やすという方向性を示しました(その後、22チームまでの増加は可能としている)。
 発表したのが2006年3月です。Jリーグを目指すクラブはJFLにもありますが、その下の地域リーグからJリーグを目指そうというクラブがたくさん出てきて、地域のサッカー界が一気に熱を帯びてきました。
 まさにその時期に、地域の動きを見ていくと日本サッカー全体が見えてくるんじゃないかと。それはもちろん、いい部分も悪い部分も含めてです。
 それで、どれだけできるか分からないけれど、北は北海道から南は九州・沖縄まで、Jリーグを目指そうとしているクラブを中心に見ていこうと。実際、地域リーグそのものの面白さもさることながら、そうした時代背景というものは常に肌で感じていました。

――地域リーグのクラブ、選手やサポーターはどのような姿勢でサッカーと接しているのでしょうか

 私が見る限り、地域リーグはフロントとサポーターの距離がすごく近いんです。ある意味、今のJリーグのサポーターがうらやましいと思えるくらい、両者ともに夢を語れる関係であったりします。同じ目線で上を目指そうという感じはあります。
 選手もJリーグと同様に、サポーターが試合や練習で応援してくれることはうれしいし、大きな力になると思います。ただ選手といっても出自はさまざまです。トライアウトを受けて地域リーグでプレーしている選手もいれば、高校、大学卒の選手も増えてきています。あとはアマチュア時代からそのクラブに所属している選手ですね。
 特に最近は、Jリーグのクラブから移籍する選手が増えていますね。彼らは2つも3つもカテゴリーを落としてきているんです。そこから這い上がって共にJリーグを目指そうというモチベーションを与えてくれるのがサポーターの存在で、そういえばFC岐阜が今季からJ2に所属していますけど、森山泰行や小島宏美は一度Jリーガーではなくなっているわけで、地域リーグから再びJリーグに戻ってきました。今後もこうしたケースはあちこちで見られるでしょうね。

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