「静かなる革命」は成功するか? 市之瀬敦のポルトガルサッカーの光と影

市之瀬敦

加速する世代交代

「静かなる革命」という名の「世代交代」は成功するのか。スコラーリ監督の手腕が問われる 【Photo:AFLO】

 さて、ここであらためてカザフスタン戦に招集されたメンバーのリストに注目したい。そこには新鮮な驚きが用意されていたように思えるからだ。
 ダニエル・フェルナンデス、トネル、ネルソン、ラウル・メイレレスの4人が初招集。クアレズマとけがの癒えたジョルジュ・アンドラーデが復帰。そして、アトレティコ・マドリードに所属するコスティーニャとマニシェが外れたのである。

 カザフスタン戦は、スコラーリ監督にとり55試合目であったが、これまで彼は52名の選手を代表に招集してきた。家族的なきずなの強さを誇るがゆえに、入るための敷居が高いといわれる現在のポルトガル代表。しかし、3年前のカザフスタン戦に招集されたメンバーと比べると、今回残っているのは7名だけである。

 スコラーリ監督は、メディアに見られる「革命」という言葉の使用を嫌がっているが、ポルトガル代表も着実に世代交代を進めているのである。思えば、彼が2003年に就任したときには、ルイ・コスタもフェルナンド・コートもフィーゴもパウレタもまだいたのである。しかし今回は、コスティーニャ、マニシェ、ヌノ・バレンテ、そしてプティも呼ばれなかった。その結果が、20名の代表選手のうち、半分の10人が25歳以下という「若返り」である。

 ポルトガルがすごいのは、こうしたベテランに見劣りしない若手選手が次々と出てくることだ。カザフスタン戦でも初招集、初先発となったトネルとラウル・メイレレスの2人も、監督の期待に応えるプレーを披露した(個人的にはベンフィカのネルソンも使ってほしかったのだが……)。
「静かなる革命」という名の「世代交代」は、成功なのか失敗なのか。その答えは、1年後には出ているだろう。もっともスコラーリ監督なら、若い才能を生かしきってくれると私は信じている。

「世界一」のベンフィカを襲った不運

 話題を代表からリーグに転じることにしたい。
 つい先日、ベンフィカが「世界一のクラブ」になった。といっても、ベンフィカがFIFAクラブワールドカップで優勝したというわけではない。そもそもベンフィカは、昨シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)で健闘したものの、ベスト8で敗退しているのだ。

 では、ベンフィカの何が世界一になったのか。それは「ソシオの数が世界一」とギネスブックに承認されたのである。
 その数、16万0398人。ギネスブックの代表者から証明書を受け取ったベンフィカのビエイラ会長は、3年以内で30万人まで伸ばすのが目標であると明らかにした。そのための戦略は、すでに没したポルトガルの反体制派歌手ジョゼ・アフォンソの名曲のタイトルと同じ。「もう1人、友だちを連れておいで」――つまり、ソシオの友人をソシオにしようというのだ。ソシオの圧倒的な支持を得て、クラブ会長に再選されたばかりのビエイラ会長。これからの3年間で目標数値の達成を果たすことができるか否か、注目したいところである。

 そんな、おめでたい知らせがあったにもかかわらず、その直後からベンフィカには不幸が襲う。
 まず、2年半前からベンフィカ・スポーツ株式会社の社長にして、ビエイラ会長の右腕的存在だったジョゼ・ベイガ氏が辞表を提出した。理由は、私財を警察当局により差し押さえられたため。ルクセンブルクの銀行が、ベイガ氏の企業を「金銭取引上の不正があった」として訴えていたのである。
 これだけでもベンフィカにはかなりの痛手であったが、17日にはイタリア人FWミッコリの移籍に関し、やはり不正があったとして、ビエイラ会長とベイガ氏がイタリアの捜査当局から事情聴取を受けたのである。

 その翌日に行われたブラガとの試合では、こうした激震の影響があったかどうかは別にして、あまりにもふがいない敗北を喫してしまった。プレースキックをそのまま相手チームのゼ・カルロスにパスしてしまうという、GKキンの信じられないフランゴ(凡ミス)から失点(でも、あのシュートはすごかった!)。その後、ブラガのGKパウロ・サントスのミスから一度は同点に追いついたものの、またしてもキンのポジショニングミスから失点を重ねた。79分には、シマゥンに同点ゴールのチャンスが訪れたが、簡単なヘディングシュートを外すと、逆にブラガが試合を決定づけるゴールをきっちり決めた。こうなるとベンフィカには、もはやなす術もなかった。

ベンフィカにつきまとう「3」の数字

 ブラガに1−3で敗れたベンフィカ。試合後、ビエイラ会長は「ベンフィカがプレーするのは見なかった。私が見たのは、ボールの後を追う数人の少年たちだけだった」と、珍しく選手たちを批判した。リーグ戦の順位も6位に落ち、ポルトとスポルティングがだんだんと遠くなりつつある。

 思えば今季のベンフィカは、北部で試合をすると必ずといってよいくらい3失点で敗れている。第2節でボアビスタに0−3、第8節ではポルトに2−3、そして第10節にブラガに1−3で敗れた。チャンピオンズリーグ(CL)では、スコットランドのセルティックにも0−3で敗れており、奇妙な一致に驚かされたりもする。

 一方で、21日に行われたCLのFCコペンハーゲン戦では、ビエイラ会長の叱咤(しった)激励が発奮材料になったのか、ホームで3−1の勝利を収め、最悪でもUEFAカップの出場権は確保した。そういえば、ルース・スタジアムではセルティックにも3−0で勝利しており、今年のベンフィカにはなぜか「3」がつきまとう。
 となると、2次トーナメント進出をかけた、オールド・トラッフォードでのマンチェスター・ユナイテッドとの最終戦は0−3での敗戦となるのだろうか。嫌な予感もしてきたが、ここはシマゥンの「不可能なものは何もない」という言葉を信じることにしよう。

<この項、了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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