ピネラ監督の短気は過去のもの?=小グマのつぶやき

阿部太郎

全米に愛される短気なキャラクター

【イラスト:カネシゲタカシ】

 カブスのルー・ピネラ監督と言えば、怒って一塁ベースを放り投げたり、審判の足元に土をかけたり、帽子をけり上げたりと、とにかく気性の激しい“短気”として日本のメジャーファンにもなじみがあると思う。米国でもピネラ監督のそういったイメージは定着しており、監督自らが出演している飲料水のテレビCMは、彼の退場シーンが面白おかしく描かれている。

 どんなテレビCMかというと、ベンチのピネラ監督が三塁の判定を受けてさっそうと塁審に詰め寄り、「別に怒ってないんだけど、ファンが怒るのを期待しているから土を蹴りあげてやる」。その後、塁審に「自分の評判を守るために退場にしてくれ」と言い、お得意の“三塁ベースの放り投げ”を披露して退くという内容だ。

 筆者もピネラ監督に対して、ワイルドなイメージを持っていた。ただ、激怒したり審判を突き飛ばしたりしても、なぜか愛着を感じていた。
 しかし、実際カブスで取材をしていると、ワイルドとは程遠い光景を目にすることが多い。試合前後の会見では、記者の質問に紳士的に応じる。声を荒げたことは、まだ一度もない。以前は、ビリー・マーティン(ピネラ監督は彼にあこがれていたらしい)並に記者につかみかかったというから、かなりの変ぼうぶりだ。“短気のルー”はどこへ行ってしまったのか。

「今のところ気の長い監督」と福留

 福留孝介が開幕前日にピネラ監督の印象を聞かれて、こう話していた。「今のところ気の長い監督ではないでしょうか」

 「今のところ」というあたり、福留自身もワイルドな監督のイメージがあったのだろう。これをある記者がピネラ監督に伝えると、こう切り返した。

「『気が長い』なんてこの国で言われたことはなかったな(笑)。15年前だったら(福留は)違うことを言っただろうけどね。実際、今は歳をとったし、そんなに憤慨するようなこともなくなったよ」

 監督自身も“ワイルドからの変身”を認めてしまった。ちょっぴり残念。変ぼうの理由を『シカゴ・サンタイムズ』のゴードン・ウィッテンマイヤー記者(ピネラ監督のシアトル時代もカバーしていた記者)に聞くと、こういう答えが返ってきた。

「デビルレイズ(現レイズ)で若手の選手をたくさん起用したり、すごく負けが込んだりして我慢強くなったんじゃないかな」

 MLB.COMのキャリー・マスカット記者も同様に話していた。

「昨年も若手を多く起用して、より我慢強くなったと思う」

 一方でウィッテンマイヤー記者は、「今でも勝ち気な姿勢は変わらないと思うよ。(今は勝っているからいいけど)負けが込んできたら、どうなるか分からないな」。

ベテラン記者が発した意外な答え

 監督の短気は健在で、奥底に依然として眠っているだけなのか。
 ならば……と思い、ある記者に話を聞いた。会見でピネラ監督を時たま辟易(へきえき)させるカブスカバー歴20年以上を誇るベテラン記者ジョージ・キャッスル氏だ。質問にうんざりしたピネラ監督が、「次!」と言って切り捨て、話すのを面倒くさがらせる人物。それだけに、「ルーの短気はいまだ健在」という返答を期待したが、意外な答えが返ってきた。

「彼は“生まれ持っての短気”だと思うけど、自分の性格を変えようとしているようだ。誰に対してもいい人間であろうとね」

 そして、キャッスル記者はピネラ監督を心から尊敬していた。

「こちらも取材だから聞かなきゃいけないことは聞くけど、ピネラ監督はしっかり対応してくれる。だから僕も何も心配せずに質問できるんだよ」

 監督の周辺取材をしたが、短気が直ったのか否かはいまだに分からない。残念だが、今の様子だと彼の退場を目にする機会はあまり巡って来ないかもしれない。だが、今でも変わらずそこに居るのは、選手にとってもファンにとっても記者にとっても、「愛すべきルー」だということだろう。

<毎週木曜日掲載>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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