世界一幸せなスポルティング育ちの選手たち スポルティング対マンU戦に見た固い絆

鰐部哲也

リスボンでのロナウドの苦い思い出

ゴール後、スポルティングのファンに敬意を表すように静かに手を合わせたクリスティアーノ・ロナウド 【Getty Images/AFLO】

 試合前日の火曜日にリスボン入りしたロナウドは「正直な気持ちを言うと、ここ(アルバラーデ)の人たちは僕のことを好きだと思う。多分僕は明日温かく迎えられるんだろうね。“第2の家”と呼べる場所へ戻って来られるのはとてもうれしいことだよ。多分、昨年や一昨年、ルスでベンフィキスタ(ベンフィカファン)にされたような仕打ちは一切ないと信じたいよ」と、公式記者会見で語った。
 彼にとってはリスボンでのCLの試合は3年連続となるが、過去2年はスポルティングの宿敵ベンフィカとの試合。特に一昨年、マンUのグループリーグ敗退が決まった試合では、ロナウドがボールを持つたびにベンフィカサポーターからの耳をつんざくようなブーイングが浴びせられた。66分にパク・チソンと交代でベンチに下がる時、いら立ってスタンドに向けて中指を立てたロナウドの行為が大問題になった。この時、ロナウドは「僕がとった行為は決して正当化されるものではないけど、観客の僕に対する態度も決して褒められたものじゃない」と吐き捨てたが、このときの苦い思い出は今も心に残っているようだ。
 この夏に移籍したばかりのナニは、「故郷に帰って来られて気分はいいよ。明日試合に出られるかどうか分からないけど、調子はいいと思う」と言葉少なに語った。

 一方、スポルティング監督のパウロ・ベントは「ロナウドがさらに進化していることを明日、この目で見られるわけだね。当たり前だけど、スポルティングを去った時よりさらに素晴らしい選手になっているだろうね。ナニは最近までここにいたわけだから、こっちの現状に近い情報はすべてナニを通して相手に伝わっているだろう。でもナニは一度もスポルティングとは試合をしたことがないわけだから、彼にとってわれわれは難しい相手になると思うよ」と前日の記者会見で語った。

2人を温かく迎えた“ホーム”の観客

 試合当日、試合前にロナウドとナニがピッチに姿を現すと、3万9514人の観客は大きな拍手で彼らを迎えた。さらにスポルティング最大のウルトラスである「JUVE LEO(ジューベ・レオ)」は、最近まで歌っていた「ALE! NANI OLE!」というナニの応援チャントを大合唱で歌い始めた。その歓待ぶりは想像をはるかに超えたものだった。
 2人の存在がいかにスポルティンギスタ(スポルティングファン)の心に深く刻まれているか、あらためて認識させられるシーンだった。

 また、後半62分にロナウドがダイビングヘッドで決勝ゴールを上げた瞬間、緑の大観衆は立ち上がってスタンディングオベーションを始めた。そしてその拍手は当分鳴り止まなかった。
 大観衆に対して申し訳なさそうに手を合わせるロナウド。これが、前日の「もし、ゴールを決めたら何かパフォーマンスをしますか?」という記者の質問に対するロナウドの答えだった。彼は歓喜の雄叫びを挙げることもなく、仲間とゴールを祝福するわけでもなく、「育ててもらったクラブ」のファンに静かに手を合わせることで敬意を表した。

 タイムアップの笛が鳴った瞬間、最後まで観客に応える赤いユニホームの背番号「7」と背番号「17」の姿があった。それはアウエーチームの選手が取る行動としては異様な光景だが、彼ら2人にとっては、ここはやはり安心できるホームなのであろう。

 試合後の会見でパウロ・ベントは、「ファンのあの拍手は、2人のこれまでの道のりに対する敬意の表れだったんだろう。とても良い光景だった。ロナウドの元同僚、ナニの元監督として彼らのキャリアと成長に満足している。できればロナウドがゴールを決めてわれわれが2−1で勝つか、ロナウドとナニがゴールを決めて3−2でわれわれが勝つのが理想だったんだけどね」と、2人の愛弟子に温かい言葉を送った。かつて自分を兄のように慕ってくれた元同僚、そしてかつて自分の薫陶を受けた元教え子と、昔の「仕事場」で再会する。パウロ・ベントにとっても非常に感慨深い試合だったようだ。

 ロナウドは「ゴールを決めた瞬間に頭をよぎったのは、今日の観客に対する感謝の気持ちだった。だからああいう行動に出たんだ。ゴールを決められたのはとても満足しているよ。でも、僕はここで何年もプレーしてきたから悲しい気持ちもあった。これはうそじゃないよ。マンチェスターもスポルティングも違う試合でホームで勝つのが一番いいね」と語って足早にバスに乗り込んでいった。

「スポルティングで育って、世界のビッグクラブに羽ばたいていくこと」
 これこそがポルトガルのサッカー選手にとって一番幸せなことなのかも知れない。ファンはいつもどこにいても自分のクラブで育った選手を見守り続け、たとえ敵として帰ってきたとしても温かく迎えてくれる。
 抽選という神のイタズラで、スポルティングというクラブの魅力を垣間見ることができた今回の試合。2人とスポルティングにこのような舞台を用意してくれたサッカーの神に感謝したい。

<了>

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著者プロフィール

1972年10月30日生まれ、三重県出身。2004年から約4年間ポルトガルのリスボンに在住し、日本人初のポルトガルスポーツジャーナリスト協会会員としてポルトガルサッカーを日本に発信。昨年8月に日本帰国後は、故郷の四日市市でブラジル人相手のポルトガル語の通訳、翻訳、生活相談員の仕事に従事しながら、サッカーライターへの復帰を模索する毎日である。

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