イングランド敗退の混乱 東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

次々と後任候補の名は挙がるが……

敗退後、24時間も経たずに解任されたマクラーレン監督。次々と後任候補の名は挙がるが、イングランドが向かう方向性とは……? 【 (C)Getty Images/AFLO】

 かくて、二度目のクロアチア戦敗退後、24時間も経たずにマクラーレンは更迭された。所詮はピッチ上のプレーヤーたちに最大の責任があるのだとはいえ、FA(イングランド協会)が取るべき道はほかにあり得ない。「ユーロ本大会出場は最低限のノルマだった。結果で判断せざるを得ない」(FA専務理事ブライアン・バーウィック)のだ。

 テリー不在中、キャプテンを務め、一貫してマクラーレン支持を叫んできたジェラードは一転、口を閉ざした。後味の悪い代表99キャップ目を刻んだベッカムは「2008年を目指す」と誓いを立てた。バーウィックおよびチェアマンのジェフ・トンプソン以下、FA中枢では「失敗の検証」と後任探しが始まり、巷(ちまた)ではマーティン・オニールとジョゼ・モウリーニョが最右翼だ、そうであるべしと喧(かまびす)しい。アンチ外国人派は、思い切ってアラン・シアラー待望論に走っている。いわく「サポート役にトレヴァー・ブルッキングをつけよ」。ブルッキングはかつて名望をとどろかせた代表司令塔で、現在はウェスト・ハムの理事とFAの教育担当重役を兼任している、当代きってのこの世界の“知性”のシンボルだ。

 一方、モウリーニョは「イングランドの出ないユーロは味気ないことこの上ない」と天を仰ぎながら「わたしは母国(ポルトガル)の代表にしか関心がない」とにべもなく、オニールも一貫して、着手してまもないアストン・ヴィラ再建にしばらく骨を埋める意志が固い。現時点ではっきり前向きな姿勢を示しているのはただ一人、カペッロ。カペッロ? どうもぴんとこない。案の定、世間の対応は、その名前を聞き流したかのように冷ややかだ。

 あるいは、ロイ・キーンのように「誰が(後任監督に)なろうと大して変わりはない。問題はプレーヤーたち自身にある。途方もない高給にどっぷりと安住している連中に、本心から代表の試合に打ち込めるとは思えない。実際、わたしが見た限りでは自分が目立つことしか考えていないようなプレーでお茶を濁していた者が何人かいた」と、顔をしかめる向きも少なくない。

声高に叫ばれる「外国人限定枠導入論」

 例えば、元代表(通算19キャップ)のポール・パーカーは、ロシア戦敗退直後のインタビューで「イングランドは(ユーロ2008予選を)クリアできない方が(将来のためには)いいのかもしれない」と声高に述べていた。「そうなってこそ初めて、われわれは足元から見詰めなおすことができる。問題解決に本気で取り組む機運が生まれるはずだ」。“問題”とは、近年、多くのファンや一部の監督連からも切実な声が上がっている「プレミアが外国人天国と化した現況」と、それゆえの「若い国産プレーヤーの相対的な疎外状況」のことである。ちなみにパーカーは、イングランドが今回に先立って最後にビッグトーナメント予選敗退を喫した94年W杯当時の代表メンバー。つまり、パーカーの発言が公になった裏には、歴史的“符号”を鑑(かんが)みた現地メディアの演出がある。つまりは「イングランドの蹉跌(さてつ)」を声高に求めないまでも、パーカーと同様の危機感、問題意識を持っている人が相当数いるということなのだ。

 先だっては、レディング監督スティーヴ・コッペルが「今こそ(FIFA会長ブラッターが主要各国リーグに向けて提唱している)外国人限定枠の導入を真剣に考えるべきだ」との声明を出したばかり。ほぼ同時期にスティーヴン・ジェラードも「限定枠導入」に前向きな発言をしていた。折りしも、マン・ユナイテッドのファーガソン監督が難敵ブラックバーンをねじ伏せた直後、「私が率いた過去現在を通じて最高のチーム」と述べたことについて、99年のトレブル(3冠)達成期やもっとさかのぼってチャールトン=ベスト=ローの時代に強い郷愁を持つメディア/ファンの間から「本気でそんなことを?」と疑義のディベートが湧き起こったように、多くの強豪チームがおよそ優秀な外国人に頼っている状況を危ぐし、改善を求める声は、これまでになく高まっている。要するに、真の責任の所在は無制限外国人天国と化した国内リーグそのものにあるという理屈だ。

 果たして“その現実”に直面した今、パーカーの提言ががぜん注目されていく可能性はあるのだろうか。FAの「検証」の俎上(そじょう)に、その議題は載せられるのだろうか。もとより、アーセナルを中心にした“ビッグ4”以下プレミアの大半のクラブから強硬な反対論が起きるのは必定だ。少なくとも「すぐ」に実行というわけには到底いかない。そもそも、「外国人限定」が代表の底上げに直結するのかどうかも分からない。

 しかし、かつて低迷期のイタリアが純国産主義を敢行して82年W杯優勝の土台を築いた例もある。真剣に熟慮するには絶好の機会なのかもしれない。誇り高いFAが、今や「世界一」を自負しつつあるプレミアリーグが、失うものを承知で歴史的な決断に向かう予感を、今、ふつふつと感じつつ「期待」してみたい気になっている。

<この項、了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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