熊本の見果てぬ夢 〜ロアッソ熊本の挑戦

中倉一志

新たなるスタート

 さて、町にJリーグのクラブができることの意義を上保事業・運営本部長は次のように話す。「子どもから大人まで共通の話題ができる。それを通してあらゆる場所で盛り上がっていくことで県民の共通意識ができる。それに2週間に一度イベントがあることで、人も動くし物も動く。それに伴って雇用ができて消費が生まれる。経済効果があって町そのものがJクラブを中心にして元気になれる」。それは、県民あげてJリーグを目指すことになった「熊本に元気の源をつくる」ことにほかならない。

 そして、クラブは新たに「ロアッソ熊本 国獲り宣言」を発表。その中で、日本一温かいスタジアムづくりを提唱し、ロアッソ熊本を通して熊本を徹底的にアピールすることに力を注ぐ。「熊本県民にとっては当たり前でも、外から見たらすごいことはたくさんある。県外からやってきた自分だからこそ分かるものもある。それを徹底的にアピールしていきたい」(同)。それが熊本県民が地域の良さを再認識することにつながれば、ロアッソ熊本の存在意義はさらに大きなものになる。

 もちろん、チーム強化が最大の目標であることは言うまでもない。クラブは中期目標として5年以内でのJ1昇格を挙げ、そのために育成強化と普及活動の拡大、そして支援体制の充実を図る。当初の夢は実現した。「元気の源」もできた。しかし、これがゴールではない。さらなる大きな夢の実現に向かってチャレンジし、それを手に入れること。それが熊本にとっての本当の夢の実現につながる。ロアッソ熊本は、その先にあるゴールに向かって新たなスタートを切る。

物語は始まったばかり

 そのためにやらなければいけないことは山ほどある。今シーズンは大きな補強をせずに戦う。今シーズンだけを勝ち抜くための補強は意味がなく、現在の力がJ2でどこまで通用するのかを見極め、将来のJ1昇格に向けてクラブの財産を作るためだ。しかし、現実として戦力不足は否めない。「出来ないことを出来ないと言ってしまったら戦えない。いま出来ないのであれば、それを出来るようにする。それがなければ戦えない」(池谷監督)。苦しい戦いが予想される中で、どこまで自分たちを厳しく追い込み、どんな時でも常に前向きに戦えるか。それがリーグを戦う上で大きな鍵になる。

 運営面でも課題は多い。今シーズンは約4億円の予算確保を目指すが、それでもJ2平均の半分にしか過ぎず、クラブハウスと専用練習場も依然としてない。昨年の平均入場者数は約3000人で、Jリーグ昇格効果を見込んでも、今シーズンの目標である平均5000人達成は簡単ではないだろう。加えて、ただひたすら前に向かって走り続けるしかなかったクラブは、その過程でほかにも多くの解決すべき問題を抱えた。「課題はたくさんある。そのひとつ、ひとつをクリアにしていかなければいけない」と、上保事業・運営本部長も口にする。

 しかし、それらをネガティブにとらえる必要はないだろう。ゼロからスタートしたクラブがたどり着いたJリーグ昇格はゴールではなく、プロサッカークラブとしてのスタートライン。これから始まる長いレースを走り抜けるためのステップととらえたい。ブレイズ熊本から始まった熊本サッカー関係者の見果てぬ夢は、その序章を終えたに過ぎない。ロアッソ熊本の物語はまだ始まったばかりだ。

<了>

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著者プロフィール

1957年生まれ。サッカーとの出会いは小学校6年生の時。偶然つけたTVで伝説の「三菱ダイヤモンドサッカー」を目にしたのがきっかけ。長髪をなびかせて左サイドを疾走するジョージ・ベストの姿を見た瞬間にサッカーの虜となる。大学卒業後は生命保険会社に勤務し典型的なワーカホリックとなったが、Jリーグの開幕が再び消し切れぬサッカーへの思いに火をつけ、1998年からスタジアムでの取材を開始した。現在は福岡に在住。アビスパ福岡を中心に、幼稚園、女子サッカー、天皇杯まで、ありとあらゆるカテゴリーのサッカーを見ることを信条にしている

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