【UFC】B.J.ペン、UFC3階級制覇に向けて再始動 名伯楽の下で最新型MMAのインストール完了

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史上初のUFC3階級制覇に向け2年半ぶりの復帰戦に挑むB.J.ペン 【Zuffa LLC】

 B.J.ペン。かつてUFCライト級で8年間無敗を誇り、ライト級タイトルを812日間に渡って防衛し続け、パウンド・フォー・パウンドとうたわれたレジェンドファイターである。ウェルター級タイトルも獲得しており、UFC史上3人しかいない2階級王者の1人である。さらに2015年にはUFCホール・オブ・フェイム(殿堂)入りも果たした。

 そのペンが、日本時間1月16日(月)に開催されるUFCファイトナイト・フェニックスで、38歳にして2年半ぶりの復帰戦を行う。対戦相手は急成長中の新鋭、24歳のヤイール・ロドリゲス。ペンがUFCでデビューした頃、まだ8歳だったというロドリゲスは現在UFCで5連勝中、まるでカンフーの達人のような多彩な蹴り技を駆使することで注目を浴びている。

レジェンドファイターB.J.ペン、2年半ぶりの復帰戦

 ペンの前回の試合は2014年7月、TUF(ジ・アルティメット・ファイター)19フィナーレでの、フランキー・エドガーとのコーチ対決であった。その試合でのペンは力強さが感じられず、動きは見るからに緩慢、まるで抜け殻のような弱々しい姿を露呈し、ノックアウト負けを喫してしまう。さしものペンも限界を悟ったか、試合後に現役引退を発表し、いったんは表舞台から姿を消していた。

 そのペンが現役復帰を宣言したのは2016年1月のことだ。ところが、出場が予定されていた同年4月の「UFC197」を個人的な事情(刑事訴訟)により欠場。次いで6月の「UFC199」では、使用が禁止されている点滴を使ってしまったことで、USADA(米アンチ・ドーピング機構)から出場停止処分を科されて欠場。さらに10月のUFCファイトナイト・マニラ(リカルド・ラマス戦)も負傷欠場。こうして現役復帰宣言から1年、試合が組まれては流れることを繰り返し、ペンが復帰することなど本当にあるのだろうかと、どこか現実感に欠けるような印象すら与えていたのだ。

B.J.ペン再生プロジェクト始動

現在5連勝中のヤイール・ロドリゲス。ペンがUFCでデビューした頃、まだ8歳だったという 【Zuffa LLC】

 ペンがグレッグ・ジャクソンに電話を入れたのは2015年のクリスマスの頃だった。

「復帰して、もう1回やってみようかと思っているんだが」

 ニューメキシコ州アルバカーキーで名門ジャクソン・ウィンケルジョンMMAアカデミーを主宰するMMAコーチのジャクソンはベテラン選手の再生で実績がある。連続ノックアウト負けを喫し、誰もがもう引退すべきと評していたアンドレイ・アルロフスキーを6連勝させて、再びUFCヘビー級タイトル戦線にまで復帰させたのはジャクソンの手腕だ。

 そのジャクソンはペンについて次のように評価している。

「ペンの印象はただ一言、才能の塊だ。リズムのつかみ方、格闘技に対する考え方を見ていると、この人が史上最高のファイターである理由がよく分かる。彼がハッピーで前向きでさえあれば、まだ2、3年はやれるし、これからすごいことを成し遂げることも可能だ」

 ペンはハワイ島ヒロから、家族親族を引き連れてアルバカーキーにやってきた。「ここに来れば、自分のダメなところを素直に言ってもらえると思ったんだ」とペンは語っている。

 エドガー戦でのペンのショッキングなまでに弱々しい姿を忘れられないファンも少なくないが、ジャクソンはそんなことは気にしなくていいと語る。

「ああ、そういうことは関係ない。情報不足、モチベーション不足による敗戦は気にすることはないんだよ。それよりも私が目を付けているのは状況に応じてどれだけのことがやれているか、ということなんだ。そこに可能性が見える限り、結果は関係ない」

「BJが勝てなくなったのは肉体的な問題ではないよ。彼は自分を選択肢が2つしかないような戦い方の型に自分を押し込んでいた。アップライトに立ちすぎているので、ジャブも打てないし、テイクダウンにも行けない。これではクリエイティブな戦い方はできないんだ。そこで我々は、BJがどのポジションからでも3通りのオプションを持てるように修正している。常に3つのオプションがあると、状況に応じたクリエイティブな考え方ができるようになるものなんだよ」

 ジャクソンはペンに“ジレンマの角”という戦術を授けている。これは南北戦争のウィリアム・シャーマン将軍が考えた戦法で、対戦相手の選択肢を減らしていくことが狙いだ。最終的に対戦相手はせいぜい、身体のどこを痛めつけられるか、くらいしか選べなくなる戦法なのだという。ジャクソンはペンの立ち姿を修正し、新しい戦術を取り入れるように心を開かせ、まだまだ十分に強いけれどもやや時代遅れになったペン試合スタイルを刷新しようとしている。

「鳥は飛ぶ。魚は泳ぐ。そして私は戦う」

名伯楽グレッグ・ジャクソンの下で最新型MMAを修得 【Zuffa LLC】

 ここではペンは、まず朝起きるとグレッグにメールで今日の予定を聞く。そして指示通りに、ジムに行ってその日の練習をこなす。さらに毎晩、“あるポジションからのクリエイティブな展開を考えてくる”という宿題を持って帰る。こうすることで、特定の技術がどんな場面に活用可能なのかを考え抜くのだ。ペンは道場主から1ファイターに戻ってシンプルな練習漬けの毎日を過ごすことを楽しんでいるようだ。

「ここはすごい選手が大勢集まっていて、すばらしい環境だ。MMAは変わったんだなと実感している。グレッグ・ジャクソンもおもしろい男だ。彼は自分なんかよりうんとクレイジーだね。まさにMMAのマスターだ。いろんなことを知っていて、知恵を授けてくれる」

 復帰戦の延期で1年に及んだアルバカーキーでの練習を振り返って、ジャクソンは「リハビリをしているんじゃないんだ。彼は再び進化した」と太鼓判を押す。ペン自身も、「今回フェザー級で復帰する理由は、UFCで3本目のベルトを取るならミドル級に上げるよりフェザー級に下げる方がチャンスが大きいからなんだ。あいつはどうして復帰なんかしてくるんだろう、と思っているヤツらをビックリさせるのが楽しみでならないよ」と腕を伏している。

 2015年のUFCホール・オブ・フェイム授賞式で、ペンは「鳥は飛ぶ。魚は泳ぐ。そしてオレは戦う」という名言を残した。ペンが本能の赴くままにエネルギーを爆発させ、全盛期の強さを取り戻すのか。それともやはり、時計の針は元に戻ることなく、残酷な現実があらわとなってしまうのか。レジェンドファイター再生プロジェクトの行方に注目しよう。

(文:高橋テツヤ)
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