さらなるタイトル獲得に貪欲なJ1王者 天皇杯漫遊記2016 横浜FM対鹿島
公式戦がなかった横浜FMと連戦続きの鹿島
帰省ラッシュをものともせず、長居に結集した鹿島サポーター。目指すは今季2冠と19個目のタイトル 【宇都宮徹壱】
キックオフ1時間前に取材現場に到着。途中、地下鉄御堂筋線の車内では、横浜FMと鹿島、いずれのサポーターも目にすることはなかった。しかし記者席から見渡すと、両ゴール裏がそれなりに埋まっていたので少し安心する。この日の公式入場者数は1万4302人。関西で行われる関東勢同士の対戦としては、まずまずの数字と見るべきだろう。ここ長居で、元日の決勝進出を争うことになった横浜FMと鹿島。今大会における両者は、非常に対照的な立ち位置にあった。それは何かといえば「日程」である。
前回のコラムでも指摘したとおり、今季のJ1で年間10位に終わった横浜FMは、11月3日でレギュラーシーズンを終えている。その後、11月12日の天皇杯4回戦から12月24日の準決勝まで、彼らは6週間にわたり公式戦がない状態が続いていた。対照的なのは鹿島で、この間にJ1チャンピオンシップ(CS)とFIFAクラブワールドカップ(W杯)、合計7試合を戦っている。こうした「日程」の差は、この日のゲームにどのような影響を及ぼすのであろうか。
試合前に配布されたメンバーリストをあらためる。横浜FMは準々決勝で出場した喜田拓也に代わって、中町公祐が3回戦以来の天皇杯スタメン。シーズン終了後、ジュビロ磐田への移籍がうわさされる中村俊輔は、この日もベンチ入りしていた。対する鹿島は、負傷や体調不良で4回戦と準々決勝を欠場していた柴崎岳が、この大一番でスタメンに戻ってきた。先のクラブW杯でも活躍した遠藤康と鈴木優麿は控えに回ったが、金崎夢生は準々決勝に続き、またしてもベンチ外。常にベストメンバーを心掛けている鹿島の石井正忠監督だが、とりわけクラブW杯以降のスタメンには頭を悩ませている様子がうかがえる。
序盤は相手に攻め込まれた鹿島だったが
序盤にゲームの主導権を握ったのは横浜FMだった 【写真:アフロスポーツ】
鹿島の出足は確かに良くはなかった。だが何度も危うい場面に陥っても、彼らは決して慌てることはなかった。的確な寄せでシュートコースをふさぎ、枠に飛んだシュートには身をていしてブロックする。前半35分には齋藤の折り返しに前田がゴール前で決定的なチャンスをつかむも、鹿島DF山本脩斗がすんでのところで得点を阻止。このシーンを契機に、試合の流れは鹿島へと移っていく。そして迎えた41分、鹿島は永木亮太のインターセプトから、土居聖真、赤崎秀平とつながり、右サイドを駆け上がった柴崎がクロスを供給。これを逆サイドに展開していた土居が、後退しながら頭でうまく合わせ、ボールはそのままゴールのニアサイドにすっぽり収まった。前半は鹿島の1点リードで終了。
エンドが替わった後半、きっ抗した展開が続く中で、両チームのベンチは最初のカードを切る。後半18分、横浜FMは富樫に代えて中村を投入。その3分後、鹿島は赤崎を下げて鈴木をピッチに送り出す。後半26分、横浜FMにFKのチャンス。中村の正確無比なキックは、中澤佑二を経由して金井貢史が頭でゴール押し込んだが、即座に副審のフラッグが上がってオフサイドの判定となった。鹿島の追加点が決まったのは、その直後。小笠原満男のインターセプトから、永木を経由して柴崎が右から折り返し、これを鈴木が右足ダイレクトでネットを揺らした。
ピンチの直後にインターセプトからチャンスを作り、最後は柴崎がお膳立て。鹿島の先制点と2点目は、同じような展開から生まれており、さながら「勝利の方程式」でも見せられているようだった。とりわけこの日、出色なプレーを見せていたのが柴崎。2つのアシストも見事であったが、ピンチが続いた前半は前線からの守備で貢献し、後半29分に小笠原に代わって遠藤が入ると、右MFからボランチにポジションを移してゲームを締めくくった。結局、2−0のスコアでタイムアップとなり、鹿島は6年ぶりの決勝進出。敗れた横浜FMは、3年ぶり8回目(日産自動車時代も含む)の天皇杯優勝、そして来季のACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場権獲得という目標がついえることとなった。