さらなるタイトル獲得に貪欲なJ1王者 天皇杯漫遊記2016 横浜FM対鹿島

宇都宮徹壱

公式戦がなかった横浜FMと連戦続きの鹿島

帰省ラッシュをものともせず、長居に結集した鹿島サポーター。目指すは今季2冠と19個目のタイトル 【宇都宮徹壱】

 8時23分に東京駅を出発した「のぞみ307号」は、新横浜ですべての座席が埋まった。帰省ラッシュがスタートした12月29日、ヤンマースタジアム長居と日産スタジアムで天皇杯準決勝が行われる。私が選んだカードは、長居での横浜F・マリノス対鹿島アントラーズ(もうひとつのカードは、大宮アルディージャ対川崎フロンターレ)。今大会のベスト4はいずれも関東勢となったため、大変なのがサポーターだ。取材者である私は1カ月前からチケットを予約していたが、11月末の時点で準決勝や決勝(今年は吹田スタジアムで行われる)進出を見越して予定を立てていたサポーターはどれだけいただろう。

 キックオフ1時間前に取材現場に到着。途中、地下鉄御堂筋線の車内では、横浜FMと鹿島、いずれのサポーターも目にすることはなかった。しかし記者席から見渡すと、両ゴール裏がそれなりに埋まっていたので少し安心する。この日の公式入場者数は1万4302人。関西で行われる関東勢同士の対戦としては、まずまずの数字と見るべきだろう。ここ長居で、元日の決勝進出を争うことになった横浜FMと鹿島。今大会における両者は、非常に対照的な立ち位置にあった。それは何かといえば「日程」である。

 前回のコラムでも指摘したとおり、今季のJ1で年間10位に終わった横浜FMは、11月3日でレギュラーシーズンを終えている。その後、11月12日の天皇杯4回戦から12月24日の準決勝まで、彼らは6週間にわたり公式戦がない状態が続いていた。対照的なのは鹿島で、この間にJ1チャンピオンシップ(CS)とFIFAクラブワールドカップ(W杯)、合計7試合を戦っている。こうした「日程」の差は、この日のゲームにどのような影響を及ぼすのであろうか。

 試合前に配布されたメンバーリストをあらためる。横浜FMは準々決勝で出場した喜田拓也に代わって、中町公祐が3回戦以来の天皇杯スタメン。シーズン終了後、ジュビロ磐田への移籍がうわさされる中村俊輔は、この日もベンチ入りしていた。対する鹿島は、負傷や体調不良で4回戦と準々決勝を欠場していた柴崎岳が、この大一番でスタメンに戻ってきた。先のクラブW杯でも活躍した遠藤康と鈴木優麿は控えに回ったが、金崎夢生は準々決勝に続き、またしてもベンチ外。常にベストメンバーを心掛けている鹿島の石井正忠監督だが、とりわけクラブW杯以降のスタメンには頭を悩ませている様子がうかがえる。

序盤は相手に攻め込まれた鹿島だったが

序盤にゲームの主導権を握ったのは横浜FMだった 【写真:アフロスポーツ】

 キックオフは13時5分。序盤にゲームの主導権を握ったのは横浜FMだった。右のマルティノスと左の齋藤学が、それぞれのサイドでしっかり起点を作り、これにワントップの富樫敬真、トップ下の前田直輝、さらには2試合連続で決勝ゴールを決めているボランチの天野純が絡んでくる。ところがチャンスは作るものの、今日の横浜FMはゴールが遠かった。前半11分、齋藤の折り返しがファーに流れてマルティノスが左足で蹴り込むも、GK曽ヶ端準がこれをブロック。15分、今度はマルティノスの右からのクロスに齋藤が右足で狙うも、シュートは大きく枠の外。20分、中町からの浮き球パスに富樫が反応するも、右足からのダイレクトシュートは曽ヶ端がキャッチした。

 鹿島の出足は確かに良くはなかった。だが何度も危うい場面に陥っても、彼らは決して慌てることはなかった。的確な寄せでシュートコースをふさぎ、枠に飛んだシュートには身をていしてブロックする。前半35分には齋藤の折り返しに前田がゴール前で決定的なチャンスをつかむも、鹿島DF山本脩斗がすんでのところで得点を阻止。このシーンを契機に、試合の流れは鹿島へと移っていく。そして迎えた41分、鹿島は永木亮太のインターセプトから、土居聖真、赤崎秀平とつながり、右サイドを駆け上がった柴崎がクロスを供給。これを逆サイドに展開していた土居が、後退しながら頭でうまく合わせ、ボールはそのままゴールのニアサイドにすっぽり収まった。前半は鹿島の1点リードで終了。

 エンドが替わった後半、きっ抗した展開が続く中で、両チームのベンチは最初のカードを切る。後半18分、横浜FMは富樫に代えて中村を投入。その3分後、鹿島は赤崎を下げて鈴木をピッチに送り出す。後半26分、横浜FMにFKのチャンス。中村の正確無比なキックは、中澤佑二を経由して金井貢史が頭でゴール押し込んだが、即座に副審のフラッグが上がってオフサイドの判定となった。鹿島の追加点が決まったのは、その直後。小笠原満男のインターセプトから、永木を経由して柴崎が右から折り返し、これを鈴木が右足ダイレクトでネットを揺らした。

 ピンチの直後にインターセプトからチャンスを作り、最後は柴崎がお膳立て。鹿島の先制点と2点目は、同じような展開から生まれており、さながら「勝利の方程式」でも見せられているようだった。とりわけこの日、出色なプレーを見せていたのが柴崎。2つのアシストも見事であったが、ピンチが続いた前半は前線からの守備で貢献し、後半29分に小笠原に代わって遠藤が入ると、右MFからボランチにポジションを移してゲームを締めくくった。結局、2−0のスコアでタイムアップとなり、鹿島は6年ぶりの決勝進出。敗れた横浜FMは、3年ぶり8回目(日産自動車時代も含む)の天皇杯優勝、そして来季のACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場権獲得という目標がついえることとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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