履正社・寺島成輝を覚醒させたある思い シンプルに真っすぐ――甲子園で剛腕披露

楊順行

甲子園の熱気とは裏腹に8割の力

今大会ナンバーワン左腕との呼び声高い履正社・寺島。初の甲子園のマウンドで、最速146キロを記録し、1失点完投勝利と堂々のピッチングを披露した 【写真は共同】

「ノーヒット・ノーラン……今日はできなかったんで、次の機会にとっておきます」

 高橋昂也(花咲徳栄高/埼玉)、藤平尚真(横浜高/神奈川)と並ぶ大会ビッグ3に挙げられる寺島成輝(履正社高/大阪)が、世代ナンバーワンとうわさの剛腕を見せつけた。高川学園高(山口)を、6回1死まで無安打。内野安打と守備のミスもあって1点を献上したが、ヒットはその6回に許した2本だけで、11奪三振、自責ゼロの完投。外野手がフライを処理したのは、9回の2つだけという圧巻ぶりだった。

「9回も力で押せたのは良かったと思います。相手も好投手。先に点を取られたくなかったですが、真っすぐを狙ってきても自分の投球ができれば打ち取れる。甲子園は、どこの球場より暑かったです。気温も、お客さんの熱気も、自分の興奮度も……だから8割の力で、制球を意識しながら投げました」

最後の打者に146キロを計測

 同じストレートでも緩急を使い分け、「真っすぐがいいから変化球も効果がある」(履正社・岡田龍生監督)と、まったく危なげなし。それでいて最後の打者の4番・石丸隆哉には、146キロを計時した。このポテンシャル、このスタミナ……。

「追い込んでからコースも、球の質もビシッとくる。今まで見てきたなかに、こんな投手はいませんでした」(石丸)

 高川打線も、冬の間は振り込みやウエイトトレーニングで打力を磨いてきた。寺島対策にはピンポン玉大のボールを近距離から投じて打ち込んだ。それでも、「しっかり見極めて甘いストレートを打つことを指示しましたが、相手が上。素晴らしいピッチャーでした」と藤村竜二監督。わずか2安打ではお手上げだろう。

 183センチ85キロと立派な体格の寺島。2005年の夏、当時の最多タイ記録となる19三振をマークした大阪桐蔭高・辻内崇伸(元巨人)を思わせる。調べてみると、身長と体重は高校3年時の辻内とまったく同じだ。しかも、サウスポー。ただ辻内は三振も取るが四死球も多かったのに比べ、この日の寺島はわずか2四死球だ。完成度では、その夏ベスト4だった辻内より明らかに高い。

勝ちきれず、もどかしかった昨秋

 2歳から小学校3年までを、東京で過ごした。小学2年だった06年の夏、兵庫の祖父を訪ねて、甲子園を観戦。優勝した早稲田実高(西東京)・斎藤佑樹(現日本ハム)の投球は、目に焼き付いている。箕面ボーイズ時代は、日本代表のエースとして世界一を達成。履正社高では1年夏からベンチ入りし、その14年夏の大阪大会では、のちに全国制覇する大阪桐蔭高相手に、7回を1失点の好投を見せている。

「あのときは、ただバッターを抑えることだけ考えて思い切り投げていた気がする」と寺島は言う。だが、昨年の新チームで主将になると、マウンドでいろいろ考えたり、計算して投げることが増えた。なにもかも「チームのため」を最優先していたからだ。そして秋は、大阪桐蔭高との準決勝、阪南大高との3位決定戦を1対2、0対1といずれも1点差で敗れ、「競った試合で負けるのはピッチャーの責任」と、勝ちきれない自分をもどかしく感じた。

 だがシーズン最後の練習試合で、「あれこれ考えず、シンプルに真っすぐで」押すと、京都成章高をノーヒット・ノーラン。「自分を解き放つイメージ」が、投手・寺島成輝を目覚めさせたといっていい。

「150キロ、出したいですね」

 そしてこの夏の大阪大会では、4試合29イニングを投げて43三振を奪い、わずか1失点と真価を発揮した。さらに決勝では、自己最速を更新する149キロをマーク。入学する春、履正社高がセンバツ準優勝を飾った戦いをアルプスから見届け、「よっしゃ、5回とも甲子園や!」という思いを、最後の夏に実現させたわけだ。

 大阪代表でPL学園高、大阪桐蔭高以外の夏の優勝となると、1968年の興国高までさかのぼるが、優勝候補の一角として、まずは順当に1回戦を突破したといっていい。

「150キロ、出したいですね」

 はきはきと語る寺島。次の出番は、大会第8日である。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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