昨年の甲子園V投手は“内野手1年生” 日本ハム・平沼は泥まみれで鍛錬の時

沢井史

チームトップの出場数

ドラフト指名直後には「夢」の文字を書いて喜びを表現した平沼 【写真は共同】

 昨年と同じように、灼熱の太陽の下、7月10日も北海道日本ハムの高卒ルーキー・平沼翔太は白球を追いかけていた。ややシャープになった顔を引き締め、イースタンリーグ・埼玉西武戦に挑む。今、平沼が立つポジションは高校時代に躍動したマウンドではなく、ショート。この日は「7番・ショート」でスタメン出場だった。
 
 昨秋のドラフト会議前から「プロは内野手で」と自ら宣言していた平沼。敦賀気比高時代に、5試合で0.40と圧巻の防御率を残して優勝した春の選抜をはじめ、甲子園3大会で10勝をマークした投手としての功績はすべてしまい込んだ。高校時代はエースで4番を務め、非凡な打撃センスを披露し野手としての潜在能力にも期待は高かったが、まっさらな気持ちで“内野手1年生”としてプロの門をくぐった。

 イースタンリーグではチームトップの70試合に出場(54安打0本塁打12打点・打率2割3分9厘/7月19日現在)。それだけチャンスを与えられていることには「すごくありがたいこと」と前置きした上で、平沼はここまでの自分をこう振り返る。

「プロはショートのエリートとして入ってきた人でも苦労する世界。そんなところに自分がいるんですから今でも課題だらけです。ここまでで、納得のいくプレーはまだできていないと思います」

守備では屈辱的な経験も……

 2月の春季キャンプでは、内野手としてのイロハを叩き込まれるところからスタートした。投手としてはオーバースローだったが、ショートの守備はいかに早く、かつ正確に一塁に送球できるか、的確なスローイングを身につけなければならない。平沼にとって、それが最初の壁だった。コーチからさまざまな助言を受けるも「頭の中で分かっていても、体で理解するのが難しくて」と、なかなか体に染み込ませられない自分にいら立つこともあった。送球の流れに乗るようなスムーズな足の運びも必要だが、スローイングとのバランスも課題だった。それがなかなか飲み込めず、守備でミスが目立つ試合が続くこともあった。
 
「この間なんて8回から(試合に)出て2個もエラーをしたんですよ。あれは正直、へこみました(苦笑)」

 高校時代、泣き言をほとんど言わなかった平沼の口から不意にこぼれた言葉。1年生から背番号をつけ、常にチームの柱として躍動してきた平沼にとって、ここまで失敗を繰り返すことは屈辱だっただろう。

周りを意識する余裕はなし

昨夏は敦賀気比のエースとして甲子園で力投を続けていた平沼 【写真は共同】

 だが、そんな中でもわずかな光だったのはバッティングだ。高校時代の金属バットから木のバットに変わり、だいたいの打者が苦労するが「木だからといって特別な意識はあまりないです」と前を向く。

 ただ、こうもつけ加える。

「振る力だけはしっかりつけていかないと。パ・リーグはストレートで押してくるピッチャーが多いと聞いたので、ストレートに対応できるよう、力をもっとつけていかないといけないと思っています」

 この日の試合では4打数3安打1打点と納得の結果を残した。「しっかり甘い球を見逃さずに打てた」と試合後にホッとした表情を見せたが、喜びに浸っている暇はない。

「今日は良かったですけれど、最近あまり打てていなかったので、まだまだやることはたくさんあります」

 試合後、ほぼ毎日のように小坂誠・2軍内野守備コーチからつきっきりで指導を受けている。ティー打撃を終えたあと、ノックや捕球体勢の確認など、何度も同じ動作を繰り返していた。投手に未練はないのか尋ねると「ないと言えば嘘になりますけれど……でも内野手としてやっていくと自分で決めたし、今は必死にやれることをやっていくだけです」とキッパリ。ゼロからだろうが、今ある道を転びながらでもしっかり歩む覚悟で、日々格闘している。
 
「最近、(春季)キャンプからずっと取り組んできたことは少しずつ形になってきたとは思います。でもまだまだ課題ばかり。それを克服するのに毎日必死です。後半戦は……せめてその課題を少しずつ減らしていけたら。(同じ高卒で1軍を経験した楽天・オコエ瑠偉や千葉ロッテ・平沢大河ら)周りのことを気にする余裕はまったくないですね。今は自分のことだけです。でも、これだけ試合に出させてもらっていて、試合の中で気づかされることも多いので、それを後半戦に生かしていかないと。もう、失敗は許されないです」

 ちょうど1年前の夏は、不調ながらエースとしてのプライドをぶつけ、夏の甲子園切符をつかんだ。状況は違うが、苦境を跳ね返すメンタルの強さも平沼の最大の武器だ。だからこそ、できないことはないーー。大きな目標に向け、泥だらけになりながら、歩みを進めている。
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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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