理想の追求が”足かせ”になった浦和 求められる勝負どころを見定めた調整法
ACL・Jリーグともに好調を維持していたが……
ACLでは武藤雄樹(写真)のゴールなどで広州を下し、決勝トーナメント進出を決めるなど浦和は序盤戦で好調を維持してきた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
広州恒大はアトレティコ・マドリーからジャクソン・マルティネスを獲得し、さらなるベースアップを果たしたはずだったが、今季の中国スーパーリーグとACLでは序盤からつまずき、ルイス・フェリペ・スコラーリ監督の去就問題まで取り沙汰されていた。そのため、広州恒大にとって浦和とのホーム戦は不安を払拭(ふっしょく)する重要なゲームであり、彼らの気合に気圧された浦和は冷静さを保てずに大きくチームバランスを崩した。
しかし、浦和は徐々に態勢を立て直し、前半30分に相手GKのミスから武藤雄樹が追撃のゴールを挙げると、後半に入り反撃を開始する。そして試合終了間際の89分、興梠慎三が狙い澄ました同点ゴールを突き刺し、4万8816人の大観衆が詰め掛けた広州・天河体育中心から貴重な勝点1を持ち帰った。
2016シーズンの浦和は元日の天皇杯決勝でガンバ大阪に1−2で敗れてから約2週間のオフを取り、1月中旬に早くも沖縄で第一次キャンプをスタートさせた。キャンプでは例年以上のフィジカル強化に励むとともに、チーム戦術のブラッシュアップを図った。今季の指針は前線からのプレス&チェイス、素早い攻守転換、ショートカウンター、ビルドアップ、コンビネーションなどを駆使する、敵陣でのワンサイドプレーだった。
広州恒大との苦しいアウェー戦を乗り切り、続くホーム戦を1−0で制すると、チーム内のムードは俄然(がぜん)高まった。自らのスタイルがアジア王者を辟易(へきえき)させた事実は自信の発露となり、Jリーグでは4月24日の首位決戦で川崎フロンターレを破り(1−0)、ACLでは08シーズン以来8年ぶりとなるノックアウトステージへの進出を決めた。しかしシーズン前半から全力でタイトル、そして理想のサッカースタイルを追い求めていたダメージは大きく、浦和は次第にチーム全体のコンディションを落としていく。
広島戦で途絶えたステージ優勝の可能性
リーグ戦で3連敗を喫したことで、ファーストステージ優勝の可能性が消えた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
一方、厳しい過密日程の中で主力選手が試合出場を続ければ当然疲労が蓄積されていく。目指すべきサッカースタイルに一切の揺らぎはなく、相手を自陣に押し留める攻撃的な姿勢で戦えば戦うほど負荷は蓄積され、プレーレベルが低下していく。5月8日のJリーグ第11節大宮アルディージャ戦(1−0)から第12節のアルビレックス新潟戦(0−0)、ACLのラウンド16・FCソウルとのホーム&アウェー、第14節のサガン鳥栖戦(0−0)までの計5試合で、浦和は全て同じ陣容が先発のピッチに立った。そしてこれ以降、チームはリーグ戦で3連敗を喫している。
今季の浦和はACLノックアウトステージへの進出によって、Jリーグの2節分が順延され、FC東京とともにファーストステージの終盤に中2日、もしくは中3日での5連戦を戦うというハンディがあった。ならば、チームはハードスケジュールを乗り切るためにコンディションを整える必要があった。もしくは、1試合90分の中で、対戦相手との力量差を見た中で、さまざまなゲームコーディネートを施すべきだった。
連敗の中で迎えた第16節サンフレッチェ広島戦は、試合開始から積極的に敵陣へ打って出る浦和のアグレッシブなプレーが目立った。早々に柴崎晃誠のゴールを許しても怯まず、関根貴大、宇賀神友弥の両サイドアタッカーがゴールを決めて逆転し、後半に望みをつなげた。しかし、時間の経過とともにスタミナを消費した浦和の選手たちは一歩の出足が鈍くなり、攻守のバランスが崩れ広島の攻撃を浴びる機会が増えていく。そして、セットプレーから塩谷司にボレーシュートを決められ、続けて塩谷に逆転のヘディングシュートを突き刺されると、ペトロヴィッチ監督は本来主力でありながらベンチに控えさせていた柏木陽介、李忠成、ズラタンの3人を同時にピッチへ立たせた。
しかし試合終盤に柏木が痛恨のパスミスを犯して佐藤寿人にダメ押し点を決められ、万事休す。柏木はふくらはぎの違和感を覚えて、ここ数日はトレーニングに加われないほどコンディションを崩していた。それでも極限状態の中でピッチに立ち、痛恨のプレーにうなだれ、試合後はスタンドのサポーターへ向かって胸の前で両手を合わせて謝罪の意を示した。この時点で、浦和のファーストステージ制覇の可能性は途絶えた。