ボスニアに”デュエル”で圧倒された日本 欧州勢との2連戦で見えた現実

宇都宮徹壱

ボスニア代表がメンバーを落として来日した理由

日本はボスニア・ヘルツェゴビナとのキリンカップ決勝戦に臨んだ 【Getty Images】

 6月3日に豊田スタジアムで開幕したキリンカップ。それから4日後の7日、大阪・吹田スタジアムに舞台を移し、3位決定戦(デンマーク対ブルガリア)と決勝(日本対ボスニア・ヘルツェゴビナ)が行われた。今年オープンしたばかりの球技専用スタジアムで取材できること。そして、参加4チームで最もFIFA(国際サッカー連盟)ランキングが高く(6月2日付で20位)、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の故国であるボスニアとタイトルを争うこと。いろいろと見どころ満載のキリンカップ最終日である。

 この日の対戦相手であるボスニア代表については、メンバーを落として来日したこともあり、当初はモチベーションの面での懸念がないわけではなかった。とはいえ、DFのエミル・スパヒッチは直近のスペイン戦でレッドカードをもらっており、エディン・ジェコはけが持ち。主力選手の離脱には、それぞれに理由や事情があった。そもそも今回の21人のメンバーには、2年前のブラジルワールドカップ(W杯)メンバーが6人、ユーロ(欧州選手権)2016予選ラウンドプレーオフ(対アイルランド戦)のメンバーが12人含まれている。国内組の若手が多いのは事実だが、さりとて「日本に敬意を欠いたメンバー」と断じるのはいささか酷だと言えよう。

 チームを率いるメフメト・バズダレビッチ監督は、ユーロ予選途中の14年12月に就任。前任のサフェト・スシッチ監督のチームを立て直し、主力メンバーをそれほどいじらずに予選を戦い続けるしかなかった。結果として本大会への道は絶たれたため、この機会に世代交代を推し進めようという意図があったようだ。長年、攻撃の中心として2トップを形成してきたジェコとベダド・イビシェビッチも、すでに30代。デンマーク戦で2ゴールを挙げたミラン・ジュリッチのように、この大会で次代を担うべき若い選手に経験を積ませるのは、指揮官として当然の判断であったと思える。

 余談ながら、バズダレビッチ監督はフランスでの指導歴が長く、08年にはグルノーブル・フット38を47年ぶりにトップリーグに昇格させているのだが、この時のGMがイビチャ・オシム元日本代表監督の盟友として知られる祖母井秀隆氏。松井大輔(ジュビロ磐田)や伊藤翔(横浜F・マリノス)といった日本人選手も在籍していた。さらにさかのぼれば、79年に日本で開催されたFIFAワールドユース選手権(現U−20W杯)に、旧ユーゴスラビア代表の一員として来日している。日本とのさまざまな縁があるだけに、バズダレビッチ監督もまた、この試合に期するものがあったはずだ。

本田と香川が不在の中で

本田、香川が欠場したこの試合。代表経験の浅い選手を試す好機となった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 試合当日はあいにくの雨。とはいえ4面を屋根で囲まれ、ピッチが非常に近く感じられる吹田スタジアムは、こんな天候でもすこぶる快適だ。また、濃いブルーで統一された座席は、代表戦との親和性が高いと感じた。実はこのスタジアム、総工費圧縮のためにあえてコンクリートをむき出しにして、塗装の費用を省いている。その代わりに、座席の色をすべてガンバ大阪のクラブカラーで統一した。吹田スタジアムの総工費は140億円。4万人収容なので、1席あたりで換算すると35万円というコンパクトぶりだ。1席あたり228万円かかる新国立競技場(6万8000人収容で総工費は1550億円とされる)と比べると、その差は明白である。

 さて、先のブルガリア戦では現体制となって最多となる7得点が飛び出し、と同時に最多タイとなる2失点を喫した日本代表。左ひざ裏に故障を抱える本田圭佑に続いて、香川真司も試合中に右脇腹を痛め、どちらもこの試合を欠場することとなった。残念ではあるが、代表での経験が浅い選手を試す好機でもある。ハリルホジッチ監督も「海外組は少し疲労が溜まっているが、国内組はまだまだ十分な準備ができていない選手が何人かいる。(中略)A代表でプレーしたければ、できるだけ早く個々を伸ばさなければならない」と前日会見で語っていた。

 この日のスターティングイレブンは以下のとおり。GK西川周作。DFは右から酒井高徳、吉田麻也、森重真人、長友佑都。MFは守備的な位置に長谷部誠と柏木陽介、右に浅野拓磨、左に宇佐美貴史、トップ下に清武弘嗣。そしてワントップは岡崎慎司。先のブルガリア戦からは4人が入れ替わった。「第1GKはまだ決めていない」という指揮官の言葉どおり、今回は川島永嗣ではなく西川がゴールマウスを守ることになった。そして本田の定位置である右MFには、招集メンバー最年少(21歳)の浅野が初スタメン。ちなみに対するボスニアも、選手の入れ替えは4人にとどまった。

 配布されたメンバー表を見て、あらためて痛感したのが両チームの体格差である。日本のスタメンの平均が177.2センチ、73キロなのに対し、ボスニアは186.8センチ、82.1キロ。身長でほぼ10センチ、体重でほぼ10キロの差がある。もちろん、サッカーは体格で競う競技ではないが、空中戦や”デュエル”(球際の競り合い)の場面で体格差が影響を及ぼすのは必至。吹田の記者席はピッチ上での臨場感がダイレクトに伝わってくるので、この日は両チームによるバチバチとしたデュエルを目の当たりにすることができた。そしてほとんどの場面で、ボスニアは日本を圧倒していたのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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