目指すは“完全描写” 難敵はクルーズ!? 文化放送・斉藤一美アナの野球実況論

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秋山翔吾・200本安打達成記念Tシャツを着用してインタビューに答えてくれた斉藤アナ 【スポーツナビ】

 プロ野球のシーズン中、多くのファンが楽しむ野球中継に欠かせないのが、実況アナウンサーの存在だ。選手、監督の一挙手一投足を伝え、ときに後世まで語り継がれるような名実況が残ることもある。

 スポーツナビではプロ野球の開幕を数週間後に控えた3月上旬、テレビ、ラジオを通じて活躍する実況アナウンサー3名にインタビュー。中継の裏側や実況テクニック、解説者とのエピソードなどを語ってもらった。今回は関東のラジオ局・文化放送の斉藤一美アナウンサー。同局のナイター中継「ライオンズナイター」では埼玉西武ライオンズびいきの応援実況を展開し、時には思い余って実況中に号泣することも……。事前にTwitterで募集した質問を含めて、斉藤一美アナの野球実況論を聞いた。

松坂初登板が実況アナとしての転機

99年4月7日東京ドームの日本ハム戦でデビューした松坂。この試合が斉藤アナにとってもターニングポイントとなった 【写真は共同】

――アナウンサーになった理由、きっかけは?

 最初は小学校5年生のときにアナウンサーになりたいと思い、就職活動でテレビ局を受験したのですが、全滅。その後、雑誌で文化放送の試験を知って受験しました。

「テレビは自分の容姿、見た目も評価され、映像に合わせて話さなければいけない。ラジオのほうが喋りのプロとして鍛えられるのではないか?」と思い、スポーツアナウンサーと音楽番組のDJを志望したところ、トントン拍子で進んで採用してもらえました。

――スポーツ中心になったのは?

 1990年に入社し3年間は報道、スポーツ、バラエティーなどをやっていました。4年目から「斉藤一美のとんカツワイド」という月〜木のワイド番組を担当。97年からスポーツ中心になりました。

――20年近い実況キャリアの中で印象に残る試合はありますか?

 実況の世界でしっかりと根を張って生きていこう、と思った試合は99年4月7日、東京ドームの日本ハム対西武戦。松坂大輔のデビュー戦です。

 オープン戦では“能ある鷹は爪を隠す”かのようにまったく本気を出していなかった松坂が、ようやく本気を出しましたね。片岡篤史を空振り三振にとった、インコース高めの完全なボール球。あの選球眼の良い片岡が、大根切りで無様な空振り三振に終わる。はるか後ろの放送席でボールを見て、「ゴーッ」という音が聞こえる感じでした。豪速球とはこれを言うのだと思いました。

 ただ、あれよりも僕は松坂の第1球が印象的です。井出竜也へのアウトロー、149キロ。片岡への155キロより、すこし遅かったですが、オープン戦ではそんな球を投げていなかったのに、最高のコースにビシっと決めた時。井出はバットを振ったか振らないかハーフスイングのような感じで、主審の平林(岳)さんが一瞬だけ間をとって「ストライク!」とコール。選手はおろか審判も戸惑ったような初球でした。あれで自分の世界に持ち込みましたね。片岡の1球より衝撃が上でした。

 あと、フランクリンという助っ人のインハイにブラッシュ気味の球を投げて、フランクリンがマウンドの方に向かいかけた時、松坂はひるむことなく1歩、2歩と前へ進みました。「これが高卒ルーキーのやることか!」と。隣で解説をしていただいていた西本聖さんも絶賛していました。

 こんな素晴らしいデビュー戦を喋った幸せは生涯忘れてはいけないと思いました。今思うとふざけた考えですが、冠番組をやってから、スポーツに来ましたが、いつかはワイド番組に戻りたい、と心に誓っていました。でも、松坂の衝撃で、「これは本腰を入れて野球の実況に立ち向かわないとバチが当たる」と思いました。あの試合を実況していなければ、気持ちを入れてスポーツ実況ができたかわかりません。

 あとはみなさんが覚えている僕の実況って泣いた時ですよね(笑)。米野智人の時(注)は別格、殿堂入りです。
(編注:2012年4月27日、福岡ソフトバンク対西武戦。西武が2点を追う9回表2死満塁で米野がファルケンボーグから逆転満塁ホームランを放ち、斉藤アナが号泣。SNSなどで話題になり、テレビのバラエティー番組などでも取り上げられた。)

キャッチフレーズはだじゃれ!?

――斉藤さんの実況で特徴的なのは、選手のキャッチフレーズと、番組冒頭の演説ですが、それぞれどんなきっかけで始めたのでしょう?
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