ネイマールがレアル・マドリーに移籍か? フィーゴ事件を彷彿とさせる周辺の喧騒

スペインフットボール界を揺るがせたフィーゴの移籍

バルセロナ移籍時の不正問題やレアル・マドリー移籍報道など、ネイマールの周辺が騒がしい 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 スペインでは、バルセロナのネイマールがレアル・マドリーに移籍するのではないかという報道が出ている。

 かつてバルセロナのアイドルだったルイス・フィーゴがレアル・マドリーのユニホームに袖を通し、“クレ(バルセロナのサポーター)”たちの仇敵へと変貌した2000年夏の事件は、一大スキャンダルとしてスペインフットボール界を揺るがせた。

 同年に行われたレアル・マドリーの会長選挙で当選した際、フロレンティーノ・ペレスはフィーゴの獲得を公約に掲げていた。当時は多くのソシオがロレンソ・サンス率いる前執行部に対して不満を抱いていたことは確かだ。しかし、それでもトップチームがチャンピオンズリーグを制した2カ月前の時点では、ペレスが圧勝することなど誰にも想像し得ないことだった。

 スタンドでは「ユダ」と書かれた旗が揺れ、フィーゴが近づいたコーナーフラッグ付近には子豚の頭まで投げ込まれた。フィーゴがレアル・マドリーの選手として初めてカンプノウ(バルセロナのホームスタジアム)を訪れた試合のことは多くのファンが記憶していることだろう。

 アルフレド・ディステファノがバルセロナで2試合プレーした後にレアル・マドリーへ渡り、1956〜60年にかけてのチャンピオンズカップ5連覇といった成功を手にしてレアル・マドリーの象徴的存在となった際も、そこまでバルセロナのファンから恨みを買うことはなかった。

 とはいえ当時はクラブ間の争いが法廷にまで及び、1年ごとに2クラブ間を行き来させる案まで出たのだが、それはバルセロナ側が受け入れなかった。

 あれから長い歳月を経た今、ディステファノ事件の真相については全く異なるいくつかの解釈が存在する。フランシスコ・フランコ率いる中央独裁政権がディステファノのバルセロナ加入を阻止するために介入したとする説もあれば、バルセロナがディステファノの移籍を交渉する相手を誤った結果だという説もある。

首都圏メディアが盛んに獲得を報じる

ネイマールの獲得により、ペレス会長(左)がフィーゴ獲得時のような衝撃を狙っているとメディアが盛んに報じている 【写真:ロイター/アフロ】

 翻って現在、成功を重ねるバルセロナの陰でレアル・マドリーの混迷期が続く中、再びペレスが16年前のフィーゴ獲得のような衝撃をライバルに見舞おうともくろんでいるとしても不思議ではない。

 レアル・マドリーは今季、出場停止のデニス・チェリシェフを起用するというスキャンダラスな失態によって国王杯を失格となっただけでなく、リーガ・エスパニョーラでも早くも首位争いから脱落しかけている。バルセロナが延期されているスポルティング・ヒホン戦で勝ち点3を手にすれば両者の勝ち点差は7に広がるし、4月には敵地カンプノウでのエル・クラシコも残っている。

 そのような状況下、ペレスはバルセロナ移籍時の不正疑惑をめぐる裁判の渦中にあり、サンドロ・ロセイ前会長を辞任に追いやる原因にもなったネイマールの獲得に手を尽くしていると今、スペインの首都圏メディアが盛んに報じている。

 これらのメディアはバルセロナ、サントス、ネイマールの父親を巻き込むこの裁判が長期化している現状に目をつけ、そこからある可能性を見いだした。

 まだ24歳と若いネイマールは、多くの識者から近い将来に世界最高の選手となる逸材だと期待されている。今現在は最高の状態にあるわけではないが、既にそのポテンシャルは十分ピッチ上で示してきている。2015年のバロンドールではリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドに次ぐ評価も受けた。その彼が今後何年も南米トリオ(ネイマールとメッシ、ルイス・スアレス)の活躍を見られると信じているサポーターの期待を裏切り、数カ月後にライバルのユニホームに袖を通す。そんなことになれば、それは間違いなくリーガ・エスパニョーラを揺るがす衝撃的なビッグニュースとなるはずだ。

 サントスとバルセロナ、そして父親を巻き込んだこの問題を解決するためには、レアル・マドリーへ移籍するしかない。ネイマールがそんなプレッシャーにさらされていると信じている者は多い。しかも既にマンチェスター・ユナイテッドが1億9000万ユーロ(約242億円)という前代未聞の破格オファーを提示したという情報も出てきているだけに、レアル・マドリーが獲得合戦に乗り出したとしても何ら不思議はない。

ネイマール親子は格好の追撃対象

ネイマールは父親(右)とともに首都圏メディアに追われる日々が続いている 【Getty Images】

 こうした状況に取り囲まれる中で、はたしてネイマールはプレーに集中し続けることができるだろうか? 父親がテレビカメラに追い回され、クラブがリスペクトを求める公式声明を出しているような現状では、とても簡単なこととは思えない。今やネイマール親子は首都圏メディアにとって格好の追撃対象なのだ。

 少しずつ「ネイマール事件」の輪郭をちらつかせることで、これらのメディアは“自軍”の振るわぬ成績にふたをしつつ、来季に向けた新たな希望に読者の目を向けることに成功している。しかもこうした状況下でネイマールがプレッシャーを感じ、本来のパフォーマンスを発揮できなくなったとしたら、それもまた彼らの思うつぼである。

 その意味では、こうした状況下でもネイマールが見せる卓越した個人技の数々は、人々を魅了するスペクタクルを提供し続けたいという彼の思いが今も変わっていないことを示している。

 願わくばネイマールには最高のパフォーマンスを取り戻し、ピッチ上でわれわれに最高の時を提供し続けてもらいたい。そうなれば誰もが彼のプレーについて語り、それ以外の話題は口にしなくなる。フットボールのためにはそれが一番だ。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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