データ分析の材料は“過去”から“今” 野球データ分析の未来を山本一郎氏が語る

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ブロガー・投資家としてテレビなどでも活躍する山本氏が、最先端の野球データ分析について語った 【スポーツナビ】

 2003年に出版され、映画化もされた小説『マネーボール』はMLBアスレチックスのビリー・ビーンGMを主人公に、セイバーメトリクスと呼ばれるデータ分析をもとに球団を強くしていくサクセス・ストーリーだ。セイバーメトリクスとは、米国野球学会が提唱した野球のデータを統計学的見地から分析する手法である。ビーンGMはこの観点から野球を「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と定義し、従来の野球では重視されていなかった出塁率、長打率、OPS、奪三振率といった数値に注目し、評価の低かった選手を再評価。これによってチームは低コストでプレーオフ常連球団へと変貌した。

 だが、同書の出版から早くも10年以上が経過しMLBでは、野球データ分析はどのように変化したのだろうか?

 投資家、人気ブロガーとしてテレビ番組にも出演する山本一郎氏は15年から東北楽天のデータ分析担当を務め、MLB傘下のマイナー球団でも招待選手の評価や故障者の状況分析など同様の業務を行っている。その山本氏が15年12月19日に行われた「スポーツアナリティクスジャパン2015」で「日米野球界に見るデータ活用の思想と実践」をテーマに講演。セイバーメトリクスの先にある最新のデータ分析とは? そしてそこから変わる野球観とはどういったものなのかを語った。

データは4系統に分かれる

 野球はセットプレーの固まりであり、ひとつひとつのプレーが結果として現れやすく、選手間の比較が容易なスポーツのひとつである反面、扱われるデータ量が多く、一定の効率を目指して分析する必要がある。そのため、多くのMLB球団ではデータを、「戦略・編成級」「戦術・作戦級」「育成級」「故障・非常時級」の4つの系統に分けて扱う。

「戦略・編成級」とは、限られた選手枠、予算の中でどういったポジション、タイプの選手を構成すれば効果的なのかを検討、マイナーリーグの状態も見極めながら時にはトレードなども行う領域である。リソースマネジメントと言われる分野だ。シーズン全体のチーム力を管理するためには、優秀な選手を25名のロースターの中にどう収めるのかがチーム戦略の鍵そのものである。

「戦術・作戦級」では試合で誰をどの場面で起用するのか、待ち球をどうするのか、送りバント、盗塁、エンドランなどの戦術をどのように活用するのか、という領域である。中継ぎの起用、代打・代走といった、リソースをゲームの中でどう消費するかを試合単位で見るとき、ここのカテゴリーに分類される。

「育成級」とはマイナーやファームの選手育成で活用される領域で、身体能力、技術の両面から選手のデータを分析することが求められる。筋力トレーニングの量を調整したり、練習の積み重ねでは改善できない得意ゾーン、苦手ゾーンの分析などがこの領域に含まれる。やってできないことは人間必ずある。逆に、ここなら負けないという利点があるのも人間だ。それをまず見極めるのが育成の使命といえるだろう。

 山本氏が専門とするのは「故障・非常時級」と呼ばれる領域である。これは選手が故障をした際、そのまま出場できるのか、あるいはどれくらいの治療期間が必要なのか、復帰後の成績の見通しはどうなるのかまでデータ担当が球団フロントに解答する分野となる。

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