佐藤寿人が語る出場時間への葛藤 監督との衝突で気が付いた役割

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「監督と衝突したことで見つめ直す時間ができた」

「優勝することの喜びは、個人で結果を出すことの比ではない」と佐藤は語る 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

――寿人選手は紛れもない広島のエースストライカーですが、近年はベンチスタートあるいは、スタメンで出てもフル出場しないケースが目立ちました。特に昨年は浅野選手の台頭もあり、フル出場はわずか1試合、平均出場時間数は約64分です。選手として割り切れない部分もあると思うのですが、どのように乗り越えてきたのでしょうか?
 
 咋年に関しては、最初から納得していました。一昨年に関しては納得できず、森保一監督とぶつかりました。でもぶつかったおかげで、監督もけがなくシーズンを通して戦うこと、チームとして勝つことを第一に考え、判断しているということが理解できました。
 
 12年にJ1で優勝し得点王、MVPも受賞しましたが、そのシーズンも決してフルでは出ていません。13年は連覇こそできましたが、フル出場は12年より少なくなりました。少しずつフル出場が減っていく中で、14年に関してはチームとして結果が出せず、不満やストレスというか「まだまだ90分やりたい」という葛藤がありました。
 
 しかし、実際はけがなくシーズンを戦えることができましたし、監督の長い目を見て選手を起用するスタンス、もちろん結果を出すことに重きを置いていると思いますが、そういう部分で監督が常に対話をし、僕がそれを消化できるレベルにもっていけたのかなと。ただ14年に監督とぶつかった時には、「ああ、まだ消化できていなかったんだな」と思いました。
 
 交代を告げられるときには、「まだまだやれる」という欲求からのストレスがあると思います。であれば、「もうやれない」と思うところまでやってから交代しようと。そうすれば、今までやっていないこともチームのためにやれるのではないかと思いました。

 そういう気持ちの切り替えがあって、昨シーズンはスタートからやれましたし、若い選手も成長してくれた。自分がスタートから飛ばして、途中から(浅野)拓磨が出て、時にはゴールを決めて、チームを勝利に導いてくれた。そういうところでは、僕自身も手応えを感じていた部分があります。
 
 選手なので、90分やりたいかと言われればやりたいです。しかしそれ以上に、チームとして勝ちたい気持ちが強い。一番良い選択は監督がしてくれると思うので、それに対して選手はどういう形でピッチに立ったとしても、全力で準備をしなくてはならないと思います。
 
――フォア・ザ・チームと言うのは簡単ですが、かみ砕いていくとこれだけの熱量、葛藤がある。その中で結果を残してきたことに改めて敬意を覚えます。伺っていると、1つのプロジェクトを完遂するために、メンバーとしての役割をこなされてきた印象を受けますが?
 
 実際にJリーグで4年間で3度の優勝を経験して、「優勝することの喜びは、個人で結果を出すことの比ではない」と思いました。個人の成果や数字というのは、もちろん仲間も喜んでくれますけれど、ほぼ自分1人でしかないもの。優勝の喜びに勝ることはまずないです。優勝は本当に特別なことなので。
 
 それに「90分間出たい」というのはみんなそうですから。30人登録選手がいれば、30人全員が思っているはず。だけど、90分フルにシーズンを通して出場できる選手なんて、それこそチームに1人か2人しかいない。自分が60分から70分で交代することにストレスを感じ、それを表現してしまったとしたら、もっと我慢している選手、全くメンバーに入れない選手はどう思うか。
 
 みんなが満足することはないですし、集団の中で何が大切かといえば、大きな結果を出すために一つになれるかだと思います。そういう意味で、一昨年に監督と衝突したことで見つめ直す時間ができた。そこを理解した上で、昨年はやれたかなと思います。 

スアレスから学ぶ動きの連続性

佐藤は日本人選手がスアレスから学ぶべき点を「プレーの連続性」と語る 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

――バロンドール候補にリオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ネイマールと3選手が選ばれました(編注:インタビューは発表前に行われた。結果はメッシが受賞)。この3選手についての率直な印象を教えてください。
 
 個の力で試合を決められる選手が3人選ばれたな、という印象です。バロンドールにノミネートされる選手は、組織の中で輝くというよりも、まず個の部分が出てくるなと。全員がストライカーとしての能力でも違いを見せられますし、実際にゴールの数も桁違いです。メッシ、C・ロナウドの2人が得点数ではずば抜けていますが、ネイマールもこれから2人に近づくと思います。
 
 参考にできる部分があるかと言うと、正直レベルがすごすぎて(笑)。1試合でシュートを打つ本数が尋常じゃないと思います。個の力だけでなく、チーム力の高さもある。ただ、チャンスではないところでも1つのプレーでシュートチャンスを作っていく、というのは彼らの共通点だと思います。
 
 僕自身は動きの部分でボールを引き出し、最後にフィニッシュするという選手なので、シュートチャンスではないところでもシュートに持ち込むという部分は課題だと思っています。そういう意味ですごく勉強になるというか、自分に持っていない部分ばかりだなと(笑)。もちろん動きの部分でも質が高いですし、ボールを持ってからの技術もずば抜けている。そういう3選手だと思います。
  
――この3選手以外の選手で言うと、同じポジションの選手としても、クラブW杯で来日し、同じ会場でプレーしたルイス・スアレス選手が挙げられると思います。実際に目の当たりにしてどういう印象を持たれましたか?
 
 まず、運動量がすごく多いなと。プレーに関与する回数が非常に多く、中央にとどまらずサイドに流れてボールを引き出して起点になったり、守備でも非常にハードワークできる。それでいて、たくさんのゴールを奪う。シュートのアイデア、形が非常に豊富で、フィジカル的な強さもあり、頭でも左右両足でも決めることができて、強いシュートもコントロールしたシュートも打てる。バルセロナに移籍してから、さらにレベルアップした印象を受けます。
 
――スアレス選手から日本人選手が参考にできるポイントは、どのあたりにありますか?
 
 プレーの連続性ですね。もちろんストライカーなのでゴールに直結するプレーが大事ではあるのですが、直結しないプレーを1つやってからゴールに向かっていく。1つのプレーが終わって一段落してしまうことが、スアレスにはない。1プレーが終わったらすぐにゴールに体を向けて行く。日本人選手に限らず、すべての選手がお手本にしなければならない部分だと思います。

――最後になりますが、佐藤選手が描く理想のストライカー像を教えて下さい。
 
 プレースタイルはいろいろありますが、「苦しい時に点が取れる」選手が理想です。大量得点を取った試合で何点取るというよりも、0−0や1−0といった拮抗(きっこう)した試合で決勝ゴールを決められるストライカーは特別だと思う。そういうストライカーでありたいと思っています。

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