前田健太、異例の契約に至った3つの理由 ドジャースとの契約過程を振り返る

菊地慶剛

ドジャース入団会見での前田健太 【Getty Images】

 ポスティング制度を利用しメジャー移籍を目指した前田健太投手が1月7日(日付はすべて現地時間)、ついにその夢を実現させた。

「Hi, my name is Kenta Maeda. I'm from Hiroshima Toyo Carp. I'm very honored to be a Dodger. Thank you.」

 入団会見で開口一番英語を披露した前田の表情は、実に晴ればれとしたものだった。しかし昨年12月24日にドジャースタジアムを初訪問し入団交渉が本格化して以降、会見までの2週間は決して平坦ではなかった。

 すでに日米のメディアがさまざまなかたちで報じているが、投手としてはドジャース史上最長の8年契約を結んだものの、完全保証されている金額は契約金の100万ドル(約1億1700万円)と8年間の年俸2400万ドル(約28億円)のみ。1年当たりの年俸300万ドル(約3億5000万円)はMLBの平均年俸(2015年は425万ドル=約5億円)にも達していない低さだ。このオフのFA市場で、先発投手部門である程度の評価を得ていた投手に提示される契約内容とは思えない内容だった。

 にもかかわらず前田はドジャースに最大限の感謝を示すとともに、誇らしげに入団会見に臨んでいた。今回は会見で得たすべての情報を披露しながら、前田がドジャース入りするに至った顛末をレポートしていきたい。

“イレギュラーな点”を共有し交渉へ

 まず前田のドジャース入りの速報がTwitter上で流れたのが12月31日のことだった。しかしそれ以降はしばらく続報が途絶え、今度は前田の身体検査に問題があり今も交渉中との憶測報道に変わった。その流れは昨年12月に、いったんはドジャースと契約合意しながら身体検査に問題があったとして契約がご破算になり、マリナーズと再契約した岩隈久志投手と類似したものに見えた。実際のところドジャースから会見のリリースが届くまで、多くのメディアが前田のドジャース入りに疑心暗鬼になっていた。だが会見で明かされた事実は、前田のケースは岩隈とは全然違っていたということだ。

 もちろん前田が自ら説明したように、身体検査で“イレギュラーな点”が見つかっていた。だがそれは契約合意の後で発覚したのではなく、前田が昨年12月に渡米直後に行った身体検査で判明したもので、ドジャースとは始めからその事実を共有した上で交渉を行っていたのだ。それは会見に同席したアンドリュー・フリードマン編成本部長も認めている。

 ここで補足説明しておくと、通常FA選手の場合、身体検査は契約合意に至ったチームによって行われるものだが、以前にポスティング制度でヤンキース入りした田中将大も渡米直後に身体検査を行い、その結果を各チームに伝え交渉を行っており、過去にもあったケースだということは理解しておいてほしい。

「とにかく我々はしっかり時間をかけて彼を再査定した。その結果16年シーズンのみならず将来においてチームを助けてくれる選手だと自信を持つに至った」

 フリードマン氏が説明しているように、ドジャースは慎重かつ徹底的に前田を調べた。チームとしてもあらためて身体検査も実施し、やはり同じ結果を得ていたという。それでもなおドジャースに欲しい戦力としてチーム史上最年長契約で獲得を決断したわけだ。

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著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

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