星稜を救った“諦めない男”加藤貴也 数少ない一般受験組でスタメンを勝ち取る

大島和人

厳しい台所事情を抱えていた星稜

決勝ゴールを決めよろこびを爆発させる加藤(右から2人目) 【写真は共同】

 第94回全国高校サッカー選手権は1月2日、2回戦が行われ、NACK5スタジアム大宮では星稜(石川)が玉野光南(岡山)に2−1で勝利を収め、3回戦進出を決めた。

 50メートル走は6秒9。身長166センチ。第94回高校サッカー選手権大会石川県大会の時点ではサイドバックの控えにとどまっていた男が、FWとしてチームを救った。諦めない男が、昨年は交通事故の影響でベンチに入れなった河崎護監督に、2年ぶりの勝利をプレゼントした。

 星稜(石川)は3大会連続で準決勝以上に進み、昨年の第93回大会ではついに初優勝を果たした北陸の雄。しかし今年は「チーム力は去年のチームから見たら半分」(河崎監督)という陣容だ。加えて「けが人が出ていて、この11人でいってほしいと思っていた。あまり交代を考えていなかった」(河崎監督)という台所事情があった。

 そんな“雑草軍団”がどう全国の舞台で戦うか――。河崎監督が白羽の矢を立てたのが加藤貴也だった。石川の名伯楽は「どん欲に(相手を)追いかけるプレーヤーが誰だと探していたら、小さい加藤の働きが良かった」と抜てきの理由を口にする。

 彼も選手権への望みを捨てていなかった。「監督は絶対チャンスをくれる。自分が中3のときも、県大会に出ていないメンバー外の選手を全国でスタメンに使ったと聞いた。絶対監督は見てくれるというのがあった」(加藤)

持ち味は万能性と“星稜愛”

 加藤にあって、他の選手にないモノ――。それは運動量とセンターバックとGK以外はすべて経験した万能性。そして“星稜愛”だ。

 愛知県内の街クラブであるFCフェルボールでプレーした彼は中3の7月に星稜の練習会へ参加したが、「君は取れないと言われた」(加藤)。それでもと9月の練習会に再チャレンジしたが、やはり推薦は得られなかった。しかし練習会参加時に見たチームの姿に、彼は惹かれた。「レベルが高いことを言っているし、厳しく周りに求め合っている。こういう集団に自分も加わってやりたい」(加藤)。そんな思いで、彼は星稜の一般受験にチャレンジした。加藤は2回戦のスタメンでも2名しかいないという一般受験組だ。

 しかし彼は受験勉強に励みつつ、入試1カ月前には愛知から上京して星稜の試合を見に行ったという。「青森山田(青森)との2回戦を見に行った。2−0で勝ったんですけれど、あらためて“ここに絶対入りたいな”と思って、受験勉強にも熱が入った」と加藤は振り返る。

 玉野光南(岡山)戦でも彼は裏を突くスプリント、ディフェンスラインへのプレスと、誰よりも多く攻守に絡んでいた。73分の決勝点は加藤が中盤に引いてMF大橋滉平とパス交換。大橋が右サイドに展開すると、プレーを途切れさせずにエリアへ走り込み、根来悠太のクロスに合わせた。フィニッシュは「ちゃんと当たっていたら外れていたんじゃないかと……。右足のインサイドで蹴ったら軸足か地面にすぐ当たって、すごい軌道で入った」と本人も苦笑するラッキーゴール。しかしあの時間帯にビルドアップへ絡み、なおかつエリア内に走り込めるところに加藤の本領がある。

 3回戦の相手は地元・愛知の中京大中京(愛知)。彼の兄・裕貴が中京大中京の選手として第86回大会へ出場したという因縁もある。だからこそ加藤は「そういう面でも中京に負けたくない」と燃えている。
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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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