なぜファン不在の表彰式となったのか? Jリーグアウォーズを変えた「2016年問題」

宇都宮徹壱

今年のアウォーズは一般観覧者の募集なし

広島が席巻した2015年のJリーグアウォーズ。青山敏弘(中央)は最優秀選手賞と最優秀ゴール賞を受賞した 【宇都宮徹壱】

 それは、いつもと違う「冬の風物詩」であった。

 毎年12月、そのシーズンに目覚ましい活躍を見せた選手や監督やクラブ、さらには審判やピッチなどを表彰するJリーグアウォーズは、サッカーファンの間では「オフの楽しみ」としてすっかり定着している。今年はJ1優勝クラブであるサンフレッチェ広島が、最優秀監督賞(森保一)、フェアプレー賞、ベストヤングプレーヤー賞(浅野拓磨)、そして最優秀選手賞と最優秀ゴール賞(いずれも青山敏弘)を独占。またベストイレブンには、最多3名が選出された(青山の他に、塩谷司とドウグラス)。今年のJリーグはまさに、広島が席巻したと言ってよいだろう。

 広島以外にも、3年連続で得点王を獲得した大久保嘉人(川崎フロンターレ)や不思議とバランスのとれたベストイレブンの顔ぶれなど、いろいろと話題を提供してくれた2015年のアウォーズ。とはいえ今回は、過去のアウォーズと比べて2つの点で大きく異なっていた事実は見逃せない。まず、今年の会場はいつもの横浜アリーナではなく、東京都内のホテルで開催されたこと。そして(これが最も重要なのだが)今回のアウォーズでは一般観覧者の募集が行われなかったこと。その理由は明確に語られることなく、「スカパー!にて生中継が行われます」という告知があるのみであった。

 そもそもファンやサポーターにしてみれば「テレビで見られればそれでよい」という話ではない。毎年このイベントへの参加を楽しみにしている人は私の周りにも多いし、この日もお目当ての選手にサインをもらうために会場に駆けつけたファンが少なからずいた。確かに「選手と交流したいならファン感があるじゃないか」という意見があるかもしれない。が、シーズン終了後の晴れがましい舞台で、選手に直接「お疲れ様!」とか「来年も頑張ろうぜ!」と声をかけることに無上の喜びを感じるファンやサポーターも確実に存在するのである。おそらく彼ら・彼女らは、今回の決定に心底がっかりしているはずだ。

 果たして、今回の“アウォーズ規模縮小”の理由は何だったのか? 当初、私は「今年は節約せざるを得ない状況なのかな」と考えた。ところがアウォーズの会場に到着してみると、さながら結婚披露宴のようにグラスと皿がテーブルに並べられ、弦楽四重奏団の演奏も入るなど、いつも以上にゴージャスな雰囲気が漂っている(料理のクオリティーも、それなりに高かったと聞く)。今回の会場変更は、どうやら経費削減が主な理由ではなさそうだ。

Jリーグを悩ませた「2016年問題」とは何か?

今年は恒例の横浜アリーナでの開催ではなく、ホテルでの会食形式となった 【宇都宮徹壱】

 アウォーズ終了後、Jリーグの広報部に会場変更の理由を問い合わせてみた。広報部によれば、会場の確保は前年の12月末に行うフローになっているという。例年ではアウォーズは12月第2週の月曜日に行われるが、15年はクラブワールドカップが日本で開催されるため、2週間後ろ倒しで予約を入れようとしたところ、思わぬ障害が立ちはだかる。「2016年問題」である。

「2016年問題」とは、首都圏のイベント会場が、耐震工事などで16年前後に軒並み使用できなくなるという問題で、すでにエンターテインメント業界に深刻な影響を与えている。実際、横浜アリーナは来年1月から7月まで、さいたまスーパーアリーナは2月から5月中旬まで、いずれも改修作業のために一時閉鎖。このため、横浜アリーナでは年始に予定されていたライブが年末に前倒しで行われる事態となり、一般観覧者を招いてのアウォーズ開催は不可能とJリーグは判断せざるを得なかったそうである。

 この説明を聞いて「なるほどね」と思う一方、「なぜそれをファンやサポーターに説明しないのだろう?」という疑念が湧いた。実際、SNS上では「村井(満)チェアマンはコアなサポーターを排除しようとしている」という意見も散見される。とはいえ、いくらスタジアムでブーイングされることもあるからといって、チェアマンがそうした狭い了見の持ち主だとは思えない。だが、今回の「内輪だけのアウォーズ」が、結果としてファンやサポーターに一定以上の疎外感を与えてしまったのは紛れもない事実だ。

 問題は、Jリーグが開示すべき情報の取捨選択とタイミングを見誤っているところにあると思う(最近でいえば、J1昇格プレーオフ決勝の会場が長居に決まっていたことを、大会直前になって発表したことなど)。余談ながら、今回のアウォーズでは参加者とメディアに『J.LEAGUE PUB REPORT 2015』という冊子が配布されている。J1リーグを2ステージ制にしたことで得られたメリットを詳細なデータで解説した、非常に興味深い資料だ。アウォーズでこうした資料が配布されるのは、私が知る限り今回が初めて。だがこうした情報も、これまでJリーグを支えてきたサポーターに、まずは伝えるべきではなかったか。

 Jリーグ広報部によれば、来年のアウォーズも今回と同じ形式になる公算が高いという。しかしその一方で「楽しみにしていたファン・サポーターの皆さまについて、何らかの対応策を打つべく検討に入っています。会場の確保が難しい中、どれだけファン・サポーターとのタッチポイントを創出できるかが課題」という回答を得ることができた。いずれにせよ、事情は理解できた。来年はぜひとも、何らかの形でファンやサポーターと一緒に楽しめるアウォーズを復活させてほしいと切に願う次第である。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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