勝利だけが救い? 2015年のラストマッチ カンボジア戦で浮き彫りになった日本の課題
カンボジア代表は「そのへんにいる兄ちゃん」?
2015年最後の試合はアウェーでのカンボジア戦。会場のプノンペン・オリンピックスタジアムには、5万人以上もの観客が詰め掛けていた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
実は今回利用しているプノンペンのホテルは、カンボジア代表チームも宿泊している。ロビーやエレベーターでよく一緒になるので、そのたびにまじまじと観察していた。ほとんどの選手が、身長170センチ台で、年齢は20代前半から半ばくらい。言葉は悪いが「そのへんにいる兄ちゃん」といった印象である。普段、ミックスゾーンで接している日本代表の選手と比べると、体格や面構えやオーラといった面でどうにも見劣りする。思いきり分かりやすく言うと、JFLや地域リーグでプレーしている選手に近い。
とはいえ、彼らは彼らで「国の名誉を背負う」というプライドとプレッシャーを胸に秘めながら、この一戦に臨むことは間違いない。ここまで2次予選6戦全敗、得失点差マイナス18という惨憺(さんたん)たる成績ではあるが、カンボジアがこれほどの高みに達したのは72年のアジアカップ(4位)以来のこと。W杯予選ではいつも早期敗退を繰り返してきたが、今大会は8試合の公式戦が確保される上に、W杯の出場常連国である日本と同じフィールドで戦うことができる。ホームで迎える今回の日本戦は、カンボジアにとって、単なる勝ち負けを超えた大きな意味を持ったゲームとなるはずだ。
試合前、スタンドから大歓声が二度沸き起こった。日本代表が登場したときと、カンボジア代表がピッチに姿を表したときである。どちらも地元のファンから発せられたのが興味深い。対戦相手の日本は純粋に憧れの対象であるためか、ほとんどブーイングが起こることはなかった。とはいえ、日本以上に大きな声援を受けていたのは、もちろんホームのカンボジア。横一列に並んだ選手たちが合掌してお辞儀をすると、5万人収容のスタジアムは独特の高揚感に包まれていった。
カンボジアの術中にはまった日本
前半を0−0で終え、大満足の地元ファンは、ドレッシングルームに引き上げていくカンボジア代表を歓呼の声で見送った 【宇都宮徹壱】
この日の日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GK西川周作。GKは右から長友佑都、吉田麻也、槙野智章、藤春廣輝。中盤は守備的な位置に遠藤航と山口蛍、右に原口元気、左に宇佐美貴史、トップ下に香川真司。そしてワントップに岡崎慎司。前回のシンガポール戦から8人が入れ替え。MFとFWは総入れ替えとなった。DFでは、発熱した酒井宏樹に代わって、左サイドが定位置の長友が右に移動。長谷部誠がベンチスタートのため、この日は岡崎が代表では初めて腕章を巻いた。キャップ数97を誇る岡崎も、初めて日本代表のキャプテンを任されたためか、試合前はずいぶんと緊張した面持ちに見える。現地時間19時14分、キックオフ。
この日、ホームのカンボジアはディフェンスラインに5人を並べる、かなり守備的な布陣で日本に挑んできた。ただし埼玉での試合のように、まったくのドン引きということではない。ある程度の高さにラインを保ちながら、日本がシュートレンジに入ると5枚のディフェンスラインが巧みに連動して、的確にコースを消してくる。そしてボールを奪ったら、すぐさま前線の9番、クオン・ラボラビーに縦パスを供給。このラボラビー、カンボジアの選手では珍しい181センチの長身で、フィジカルも強く足も速い。実際、日本のパスミスから鋭いカウンターを繰り出し、シュートまで持ち込むシーンが前半だけでも3回あった。
前半の日本は、相手の術中に完全にはまってしまっていた。さらに言えば、目を覆いたくなるくらいひどいものであった。再三チャンスを作るも、シュートはことごとく相手の5バックに弾き返され、慣れない人工芝にパスミスを連発。なかなか先制点が生まれない中、焦燥感ばかりが募り、逆に相手に勇気を与えてしまう状況が続く。この日、左サイドで出場していた宇佐美は「あれだけ引かれていたら、裏を狙うのはなかなか難しかった。すべて良くない方向に行ってしまっていた」と語っていたが、まさにそのとおりの展開。前半アディショナルタイムには、香川からのラストパスを受けた藤春が際どいシュートを放つも、惜しくもポストに嫌われる。直後にホイッスル。45分で0−0という結果に大満足の地元ファンは、ドレッシングルームに引き上げていくカンボジア代表を歓呼の声で見送った。