リバプールにとって“完璧”なクロップ ロジャーズ政権を継ぐに適任な熱血漢
疑問符がついたロジャーズの補強センス
ボリーニら移籍失敗組の多くがロジャーズの希望選手だった 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
元アーセナルのFWが語ったこの言葉が、2つめの理由になる。ロジャーズは3シーズンで移籍マーケットに3億ポンド(約552億円)もの大金をつぎ込んだ。今季加入組を査定するのはまだ早いが、ここまで“コスパ”が良かったのはダニエル・スタリッジとフィリペ・コウチーニョ、あとは成長が見込めるエムレ・カンくらいだろう。
リバプールには「移籍委員会」という独特のシステムがあり、ロジャーズは補強の最終決定権こそ持っていたが、必ずしも狙い通りの選手を獲得できなかったというエクスキューズはある。ターゲットの選定や交渉はオーナーグループの重役やCEO(最高経営責任者)、スカウト担当など「委員会」のその他5名の総意が働くからだ。
それでも、『リバプール・エコー』によればデヤン・ロブレンやファビオ・ボリーニ(現サンダーランド)、リッキー・ランバート(現ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン)といった失敗組の多くがロジャーズの希望選手で、コウチーニョやスタリッジは委員会が推薦した選手だったというのだから、ロジャーズの補強センスには疑問符をつけざるをえない。
その点、クロップは安心だ。財政難だった就任初期のドルトムントで、彼は香川真司をわずか35万ユーロ(約4800万円)で発掘し、無名だったロベルト・レバンドフスキを400万ユーロ(約5臆4600万円)でドイツに連れてきた。クラブにムダ遣いをさせず、才能豊かでチームにフィットする選手を連れてくるセンスには定評があり、CEOやスポーツ・ディレクターとの連携も円滑だった。前任者のように、クラブの信頼を損なう失敗補強は減るだろう。
眠れる名門に再び火を
クロップはコップたちを熱くすることができるか 【写真:Action Images/アフロ】
「リバプールのエモーションを呼び覚ますために、クロップは理想的な解決策だ」(ディートマー・ハマン)
3つ目の理由は、サポーターとの信頼関係だ。アグレッシブなスタイルの放棄、移籍市場での力不足を目の当たりにしたサポーターは、すっかりロジャーズへの信頼を失い、冷めきっていた。どんなパフォーマンスの後でも「選手たちはベストを尽くした。チームはこれから良くなっていく」の一点張りだった試合後コメントに飽き飽きしていたファンも少なくない。
そんなチームに、言説巧みな熱血漢であるクロップはピッタリだ。選手の心をつかむ気鋭のモチベーターとして知られると同時に、正直で、熱にあふれた彼の言葉は教え子だけでなくファンの心も動かす。
また、クロップの友人である元ドイツ代表MFステファン・エッフェンベルクはこう話す。
「リバプールには素晴らしい雰囲気がある。ドルトムントと似ているね。ファンは全力でクラブをサポートする。それはまさにクロップが求めているものだ」
かつて黄色い壁をうねらせたように、アンフィールドに赤い大波を起こして眠れる名門に再び火をつけるには、まさに適任者である。
今、マージーサイドは希望に満ちている。なにしろ、「自分が感じていることを十分に表現できるほど英語力がない」と言いながらも、クラブのオフィシャルTVが行った最初のインタビューから、クロップは格言連発なのである。
「私はエモーショナルで、速くて強いプレー哲学を信じている。私のチームはフルスロットルでプレーしなければならないし、あらゆる試合で限界まで戦わなければいけない」
「ファンを楽しませなければいけない。フットボールなんてたいしたものじゃないし、医者みたいに人の命を救えるわけでもない。でも、ファンは90分間だけ自分の問題を忘れることができるんだ」
「リバプールは今、ナーバスで、悲観的で、疑いに満ちている。“Doubter(疑う者)”から“Believer(信じる者)”に変わるときだ。今こそね」
なるほど、その圧倒的なポジティブオーラを見れば、救世主として期待したくなるのも分かる。
ワインより、ビールが好き。静かなオーケストラより、ヘビメタが好き。完璧なフットボールより、戦うフットボールが好き。そんな愛すべき新監督がコップ(リバプールファンの愛称)たちを熱くするのは1週間後、ホワイト・ハート・レーンでのトッテナム戦からだ。