コーミエvs.グスタフソンのカギは距離=高阪剛が語る「UFC 192」見どころ

WOWOW
 日本時間の10月4日にアメリカ・テキサス州ヒューストンで開催される「UFC 192 in ヒューストン」。メインイベントは、王者ダニエル・コーミエがランキング2位のアレクサンダー・グスタフソンと対戦するUFCライトヘビー級タイトルマッチ。また、同王座の元王者ラシャード・エバンスの1年8カ月ぶりの復帰戦にして、次期挑戦者決定戦とも言えるラシャードvs.ライアン・ベイダーも組まれている。この2試合の見どころをWOWOW『UFC−究極格闘技−』解説者の高阪剛氏に語ってもらった。

グスタフソンの課題はインファイト

前回、1R2分15秒でTKO負けを喫しているアレキサンダー・グスタフソン。そのトラウマを払拭できているか!? 【(C)Photo Courtesy of UFC】

――今回は「UFC 192」の見どころを語っていただけたらと思います。まだ、日本大会の興奮も冷めやらぬ感じだとは思いますが。

 いやあ、日本大会の一週間後にこれだけのカードを揃えるわけですからね。UFCがどれだけ層が厚いのかって思いますよね。

――そのメインイベントはライトヘビー級タイトルマッチ、ダニエル・コーミエvs.アレクサンダー・グスタフソン。現時点でのライトヘビー級頂上対決と言っていいかと思いますが、この一戦はどう見ていますか? 

 まずグスタフソンっていうのは、とにかくデカいじゃないですか。ライトヘビー級で2メートル近い身長があって、リーチは2メートル以上ある。普通、あのサイズ、あのスピードを持つ選手に、前手のジャブで手を伸ばされたら、なかなか前に出られないんですよね。

――グスタフソンは、まず遠い間合いで距離を制すわけですね。

 ただ、コーミエはライトヘビー級の中では背も低いし、リーチも短いので、相手がグスタフソンだからというわけじゃなく、勝負をかけるときは懐に入って、パンチで主導権を握ってテイクダウンにいくという、いつもの戦いをすると思うんですよね。

――コーミエにとって、身長差、リーチ差があるというのは、ある意味で、“いつものこと”だから、それほど苦にしないのではないか、と。

 そうですね。逆にグスタフソンは、身長差やリーチ差を気にせず、インファイトを挑んでくる相手に、苦手意識を持っている可能性もあると思うんですよ。というのは、グスタフソンは前回、自分の地元スウェーデンで次期挑戦者決定戦をやって負けてるじゃないですか。

――アンソニー・ジョンソンに1ラウンド(2分15秒)でTKO負けしてますね。

 あの負け方っていうのは、強烈にトラウマになってると思うんですよ。

――初のTKO負けでしたからね。しかも秒殺で。

 相手と組み合う状態とか、距離がゼロになる状態ということに対して、ものすごく嫌なイメージがついていると思うんですよ。あの負けによって強烈に。だから、コーミエに中に入られたら、グスタフソンの心拍数は確実に上がると思うんですよね。そういう心理的なことも含め、今回のコーミエという相手に対して、インファイトでの攻防をどこまで克服できるか。もしくは払拭できるか。それがグスタフソンサイドの課題だと思うんですよね。

――なるほど。グスタフソンにとっては、前回のアンソニー・ジョンソン戦で露呈した課題を克服できるかどうかが一番のポイントなわけですね。

 コーミエがやることは、いつもと同じだと思いますからね。だから試合の流れとしては、自分はグスタフソンの動きに注目したいですね。入ってくる相手に対して、迎え撃つ攻撃。腕を畳む系の打撃になると思いますけど、フック、アッパー。それから首相撲からのヒザで、どこまでコーミエにダメージを与えることができるか。インファイトになれば、当然テイクダウンを取られたり、距離をゼロにされるリスクを背負いながら、できるようになっているかどうかですよね。距離を取ってなるべく中に入らせないようにして、判定でもいいから勝つというのが安全策ですけど。アンソニー・ジョンソン戦の負けによって、インファイトになっても勝てるファイターに成長できたかどうかですよね。

――インファイトを嫌がるのではなく、そこでも勝負できるようになっているかどうか。

 完全に排除したか、それとも受け入れて、攻略するのか。二つにひとつだと思うんですよ。そこに注目したいですね。

コーミエは進化するチャンピオン

高阪氏が「試合をしながら進化しているチャンピオン」と評すUFCライトヘビー級王者ダニエル・コーミエ 【(C)Photo Courtesy of UFC】

――一方のコーミエにとっては、身体のサイズからして、グスタフソンは仮想ジョン・ジョーンズ的な相手でもありますよね?

 ただ、グスタフソンはある意味でジョン・ジョーンズに“負けた”わけではないと思うんですよ。もちろん試合自体は負けましたけど、インファイトの状態での戦いはやりきったと、ポジティブに捉えてると思うんです。そうすると、より相手の懐の中に入って自分の試合を作るというのを深めている状態だと思うので。インファイトでの戦い方がさらに進化している可能性が高いんですよね。

――ジョン・ジョーンズ戦の敗戦が、ダニエル・コーミエをより強くした、と。

 前回アンソニー・ジョンソンとやって、ああいうフィジカルが強い相手と正面から戦ってもフィジカル負けしない姿も見せているし。遠い間合いから伸ばしてくる打撃の処理の仕方も、ジョン・ジョーンズとの試合でしっかり感触を得たと思うんですよ。だから、ダニエル・コーミエは、タイプは違いますけど、フライ級王者のデメトリアス・ジョンソンと同じように、試合をやりながら成長しているチャンピオンということが言えると思いますね。

――進化するチャンピオンですか。となると、グスタフソンを破ったら、もうこの階級で独走になるんじゃないですか? ジョン・ジョーンズ不在の中でですけど。

 正直、そうなる可能性は高いと思うんですよ。あの身体でフルラウンド動き続けるスタミナがあって、トップクラスのレスリング能力があり、なおかつパンチがうまい。だから、やることは決まってるんですけど、徹底してやり続けるだけのスタミナを持っているというのが強みですね。テイクダウンにしても、正面からタックルで倒すテイクダウンもあれば、バックに回ってるいわゆるすかしのテクニックも使ったり、いろんなバリエーションを持っている。そういうもともと持っていたレスリングテクニックを、しっかりとオクタゴンの中でも使えるものにしているというのは、かなりの強みだと思いますから。だからダニエル・コーミエというのは、レスリング&ボクシングの進化系と言えると思いますね。

――レスリング&ボクシングの選手というのは、UFC創成期からいますけど、その最先端バージョンというか。

 そうですね。タイプ的にボクシング&レスリングというのは、例えばマーク・コールマンとか、マーク・ケアー、ドン・フライ、ケビン・ランデルマンと昔からけっこういて、タイプ的にそういった選手たちと、大きなくくりとしては同じなんですけど。それを、いまのUFCのレベルにしっかり合わせて、なおかつチャンピオンとして強くなり続けているところが、ボクシング・レスラーの進化系という感じが自分はするんですよ。

――ボクシングテクニックにしても多彩ですもんね。

 ショートレンジの打ち方と、パンチの回転の速さは抜群だし、ロングのフックも打てる。後ろ手のストレートはアゴが出ちゃいますけど、それはあの階級としては背が低いから仕方がない。また、自分がいま持っている技術を駆使して、相手のレンジによって変えるアジャスト能力というのは、やっぱりトップレベルだと思うし、身体能力も高い。何よりもそれをライトヘビー級でやってくれているというのが、自分はうれしいですね。

――ライトヘビー級という重量級とは思えない戦いというわけですね。

 だから、ライトヘビー級とは思えない戦いができるダニエル・コーミエに対して、長身のリーチの長いグスタフソンが、どう攻略するのか。そこが見どころだと思いますね。

距離設定が違うラシャードとベイダー

――また「UFC 192」では、ライアン・ベイダーvs.ラシャード・エバンスという事実上の時期ライトヘビー級王座決定戦であり、ラシャードにとっては1年10カ月ぶりの復帰戦となります。

 ヒザの手術をしたんですよね。

――はい。ヒザの前十字靭帯の手術からの復帰です。

 だから、まずはそのヒザの状態がどこまで戻っているのかという問題がありますけど、それを除くと、コーミエvs.グスタフソンと同じような部分もあると思うんですよ。

――どういった部分でしょう?

 ベイダーとラシャードは、そこまで身長差はないですけど(ベイダーが約7センチ高い)、間合いが違うんですよね。自分はライアン・ベイダーという選手を前から面白いなと思っていて、打撃の距離も長いし、タックルの距離も遠いんですよ。そこがライアン・ベイダーの強みなんです。普通、タックルって、打撃で距離を詰めてからいくんですけど、タックルを打撃と同じように使えるので。タックルの動き自体が、ストライキングと同じ効果を持つんですね。たとえばタックルにいく動作をすると、相手はタックルを切る動作に入るからガードが下がるんですけど、それを遠い距離からさせることができる。で、一方のラシャードというのは、インファイトで打ち合いになったときに、真価を発揮するタイプじゃないですか。

――回転の速い左右のフックが武器ですからね。

 だから、バックボーンだけ見ると、ベイダーもラシャードもレスラーで打撃のKO率が高い選手なんで、同タイプにも思えるんですけど、距離の設定の仕方がまるで違うので、そこがすごく興味深いと思いますね。

――得意とする間合いが、真逆なわけですね。

 ラシャードは、ライアン・ベイダーの距離の設定にさせないように中に入ろうとする。逆にライアン・ベイダーはラシャードに入られると厄介なんで、自分の距離のレンジを保とうとする。だから、タックルも含めて、どちらが自分の攻撃を差せるのか、その駆け引きが面白くなるだろうなと思います。

――この試合の勝者が、おそらく次期ライトヘビー級王座の挑戦者として大きく浮上してくると思いますけど、チャンピオンが防衛すると仮定して、どちらとコーミエがやったら面白いですかね?

 自分はライアン・ベイダーの距離の取り方とか好きなんですけど、ラシャードとコーミエというのも見てみたいんですよね。ラシャードは古くはないですけど、新旧のレスリング出身でパンチが強い選手同士の試合になるので。

ラシャードの完全復活なるか!?

――先ほど、「コーミエはボクシング&レスリングの進化系」という話がありましたけど、ことボクシングテクニックだけで言ったら、ラシャードのほうが一枚上かもしれませんしね。

 そうですね。ラシャードはあらゆる角度からパンチが打てますからね。あとはカウンターもすごくうまいし。

――ランペイジ・ジャクソンとの試合なんか、すごくハイレベルなボクシングの応酬でしたしね。

 ラシャードは、相手と同じタイミングでフックを打っても、先に当てられるんですよ。それはヒジをコンパクトにたたんで、すごく近い距離で打てますからね。あのショートのフックというのは、力んじゃったら速く打てないんですよ。でも、しっかり速いフックが打てる選手なんで、テクニックとしてはすごく高いものを持っていますよね。

――では、今回のライアン・ベイダー戦は、そういうボクシング技術を持ったライトヘビー級のスター選手が、完全復活できるかどうかの試合でもあるわけですね。

 そうですよね。まったくタイプの違うライアン・ベイダーと戦うことによって、バージョンアップして帰ってきたのかどうかがわかると思います。またベイダーというのはいい試合が多いんですけど、負けることも多いんですよね。だから、ベイダー側からしたら、ラシャード戦では、いい試合をしながら勝ち切ることができるか。ここが正念場だと思いますね。

(取材・文:堀江ガンツ/WOWOW UFC解説者)

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★生中継!UFC−究極格闘技− UFC192 in ヒューストン コーミエ初防衛戦!ラシャード・エバンス復活!
UFC192は、新王者コーミエにグスタフソンが挑むライトヘビー級タイトルマッチを放送。2年ぶりの試合となる元ライトヘビー級王者ラシャード・エバンスの復帰戦も。
【放送日】10月4日(日)午前11:00〜[WOWOWライブ]※生中継
ゲスト解説:宇野薫

【対戦カード]
<ライトヘビー級タイトルマッチ>
[王者]ダニエル・コーミエ
[挑戦者]アレクサンダー・グスタフソン

<ウェルター級>
ジョニー・ヘンドリックス
タイロン・ウッドリー

<ライトヘビー級>
ライアン・ベイダー
ラシャード・エバンス

<女子バンタム級>
ジェシカ・アイ
ジュリアナ・ペーニャ

★「UFC−究極格闘技− UFC193 in オーストラリア」
絶対女王ロンダ・ラウジーが元ボクシングチャンピオン、ホーリー・ホルムと対決するUFC193 in オーストラリアを生中継!地元出場のマーク・ハントはアントニオ・シウバと激突!
【放送日】11月15日(日)午後0:00〜[WOWOWライブ]※生中継


★「UFC−究極格闘技− UFC in ソウル ミルコ・クロコップ&秋山成勲 参戦!」
韓国初のUFC大会、UFC in ソウルを放送。メインは2012年のUFC JAPANで王者となったベンソン・ヘンダーソン。ミルコ・クロコップ、秋山成勲も参戦!
【放送日】11月29日(日)午後5:30〜[WOWOWライブ]
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