新体操、協会挙げての強化策が奏功 五輪3大会ぶりの個人出場へ

椎名桂子

皆川が日本にもたらしたリオ切符

世界選手権の個人総合で15位に入り、日本に3大会ぶりの個人での出場枠をもたらした皆川夏穂 【Getty Images】

 2015年9月11日(現地時間)、日本の新体操関係者とファンは歓喜に包まれた。世界選手権(ドイツ・シュツットガルト)で、皆川夏穂(イオン)が、69.399点で個人総合15位に入ったのだ。今大会では、個人総合15位までの選手の国に、16年リオデジャネイロ五輪の出場枠が与えられることになっており、皆川の健闘で、日本は3大会ぶりに悲願となる五輪への個人出場を果たすこととなった。

 04年のアテネ大会には、当時の全日本チャンピオン・村田由香里が個人競技に出場したが、日本は団体には出場できなかった。しかし、元来、身体能力でヨーロッパ勢には劣る日本にとって、メダル獲得の可能性があるのは団体と言われており、同大会以降、日本の強化は“団体中心”へと舵を切った。その結果、08年北京、12年ロンドンと日本は団体で五輪出場を果たし、徐々に世界でのポジションを上げてきた。

 ただし、個人選手の強化は、あくまでも“所属まかせ”。ワールドカップなどの国際大会への派遣もほとんどされず、国際的な知名度のないまま、その時の全日本トップクラスの選手たちが、世界選手権に出場し、世界の厚い壁を思い知らされる……そんな時代が続いていた。

ロシアで身につけたタフさ

「個人でも五輪出場」を目指しての強化策が本格化したのは、12年のロンドン五輪後だった。特別強化選手だった皆川を早川さくら(イオン)とともにロシアに派遣して長期合宿を行うことにしたのだ。2人はジュニア時代から実績もある選手ではあったが、当時はまだ全日本チャンピオンでもなかったが、リオ五輪を見据えて、次世代エースの2人に日本の未来を託すことにしたのだ。

 皆川がロシアに渡って、すでに3年近くが経っている。現在、世界の新体操界をけん引する国で、世界のトップ選手たちと同じ環境で指導を受けることで、彼女は大きく成長した。技術が向上したのはもちろんだが、今回の世界選手権でより強いインパクトを残したのはメンタリティの変化だ。五輪枠の懸かった大一番、会場を揺るがすような大歓声でも、皆川は実に堂々としていた。演技以外の部分での立ち振る舞いが、“国際舞台で戦っている選手”という風格を感じさせるものだった。

 とはいえ、今大会の出来は最高とは言えず、課題も残った。予選4演技、決勝4演技を通して会心の出来と言えるのは、予選でのフープ、リボン、決勝でのリボン、ボールくらいだろうか。山崎浩子強化本部長はたびたび、「皆川の演技構成の難しさは世界でもトップレベル」と言うが、それだけになかなかパーフェクトな実施ができない。今大会もそうなってしまった。

 ただ、今までと違っていたのは、いくらかのミスはあっても、それで大崩れしないだけのタフさを、彼女が身につけていたことだろう。そのタフさは、やはり国内で切磋琢磨(せっさたくま)しただけでは育たないものだ。新体操の強国・ロシアに飛び込ませ、「日本のエース」として3年がかりで世界に売り出していく、という強化策は、見事に実った。

 リオ五輪本番は来年、そして5年後には東京五輪が控えている。今回の結果でほっとひと息ついている暇はない。今大会では残念ながら69.065点の17位に終わり、枠獲得にあと一歩届かなかった早川も、日本に与えられた五輪出場「1枠」を勝ち取るために、さらに自身の演技を高めてくるだろう。

 この後に続く、五輪「1枠」を懸けた争いにも注目が集まる。

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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