アフガニスタン戦をどう戦うのか? 日本代表イラン遠征取材日記(9月7日)

宇都宮徹壱

テヘランで遭遇した経済制裁の影響

テヘランの観光スポット、ゴレスターン宮殿。時間がなかったので外観のみを撮影 【宇都宮徹壱】

 テヘラン滞在2日目。当地で行われるワールドカップ(W杯)アジア2次予選、アフガニスタン戦を前日に迎えたこの日、同じホテルに投宿している同業者たちと、テヘランの観光地のひとつであるゴレスターン宮殿を見学した。と言っても時間がなかったので、とりあえずガージャール時代の王宮の外観を眺めて写真を撮るだけで満足することにした。イランの観光地といえば、エスファハーンやシーラーズやヤズドが有名で、日本からの観戦ツアー参加者の多くは、国内線でこれらの地域をめぐってから試合に駆けつけるようだ。しかし取材で来ているわれわれは、もちろんそんな遠出をするわけにもいかない。加えて今回のイラン取材では、フリーランスの記者の多くが金銭面の「節制」を強いられており、滞在中はあまり贅沢ができない状況が続いている

 イランの物価は、それほど高くはない。300円から400円くらいで食事を済ませることも可能だ。ただし非常に困ったことに、当地ではクレジットカードが使えない。銀行やATMもあるにはあるのだが、国内の銀行のみの扱いなので、われわれ外国人がお金を引き出すことはできないし、トラベラーズチェックの換金も不可。いずれも、米国を中心とするイランへの経済制裁の影響である。そんな中、試合のアクレディテーションカード(記者証)とは別に、文化イスラム指導省が発行する取材許可証を取得するために、さらに200ドル(約2万4000円)を支払わなければならないことが判明。手持ちのキャッシュが少ない同業者を大いに当惑させることとなった。かくしてわれわれは、日本も加わっているイランへの経済制裁に、図らずも苦しめられることになったのである。

 もっとも、テヘランでの生活そのものは(ビールが飲めないことを除けば)いたって快適である。何と言っても、英語が思いのほか通じるのがありがたい。現地で携帯電話のSIMカードを交換したときも、スタッフと英語でやりとりできたので、ほとんどストレスを感じることはなかった。先ごろ東アジアカップで訪れた中国や、昨年のW杯開催国であるブラジルと比べると、これは非常に驚くべきことである。また街中の地名の表示やメトロの案内も、アルファベットが併記してあることが多く、戸惑うことがあっても通行人が親切に教えてくれる。「厳しい戒律に支配された国」とか「世界中から制裁を受けている国」といったイメージばかりが先行するイラン。それでも実際にかの国に身を置いてみると、人々の親しみや優しさに触れる機会の方が、むしろ多く感じられた。

キーワードは「センタリング」と「2つのポジション」

明日の先発について「2つのポジションが決まっていない」と語るハリルホジッチ監督 【宇都宮徹壱】

 試合前日の会見と練習を取材するべく、会場のアザディ・スタジアムに到着。ここを訪れるのは2005年以来10年ぶりだが、バックスタンドに掲げられたルーホッラー・ホメイニー師とアリー・ハーメネイー師の肖像画が色あせていた以外は何も変わっていない。アザディ総合スポーツセンターの中に位置するアザディ・スタジアムは、イスラム革命前の1974年に開催されたアジア競技大会のメイン会場として建設され、他にも室内競技場や競泳プールといった施設がセンターの広大な土地に点在する。メインゲートからスタジアムまでは、たっぷり15分は歩かなければならない。

 この日の会見でヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、明日のアフガニスタン戦に向けて、2つの興味深いコメントを残している。まず、ゴールに至るプロセスのイメージについて。そしてスターティングイレブンについての言及である。

「センタリングはかなり重要なテーマになってくると思う。(受ける選手は)ゴール前で戦略的に、3つから4つのポジションを取りなさい。センタリングに関してはオートマティックにしていこう。そして最後のシュートでは冷静に集中してほしい。そういう話を(選手には)した」

「2つのポジションについて、まだ先発が決まっていない。次の試合に向けてストラテジック(戦略的)なことを考えているが、その選手が出場したからといって、すぐにゴールが決まるわけでない。今夜、何人かの選手と話してから決めたい」

 先のカンボジア戦(3−0)では、特に前半において右サイドバック(SB)の酒井宏樹から精度のあるクロスが供給されたものの、ゴール前に走りこむ香川真司や武藤嘉紀にタイミングが合わず、指揮官は度々ベンチの前で天を仰いだ。結果として日本のゴールは、本田圭佑と吉田麻也のミドルシュート、そしてゴール前の混戦から香川が決めた3点のみ。ハリルホジッチ監督がイメージしていた、左右の折り返しからゴールネットを揺らすシーンはお預けとなった。おそらくアフガニスタン戦でも、このイメージを追求してくることだろう。そして「2つのポジション」とは、クロスを供給する側、受ける側のチョイスで迷っているのではないか。となれば、右SBに酒井高徳、左MFに宇佐美貴史の起用も考えられる。

 対するアフガニスタンは、守備的に来るのか、それとも前に出て来るのか。選手の共通認識は「ホームだから前に来るだろう」というものであった。キャプテンの長谷部誠は「後ろでブロックを作るより、むしろ出てくるという感じになれば、こちらとしてはやりやすい。そういう穴もいくつか見つけたので、そこをうまく突くことができれば」と語っている。現在グループ4位のアフガニスタンは、19年のアジアカップ出場の夢は捨てていないだろうから(編注:今大会はアジアカップの予選も兼ねている)、番狂わせの野心を秘めている可能性は十分に考えられる。一方の日本にとっても、これが今予選初のアウェー。このアフガニスタン戦は、良くも悪くもスリリングな展開になるかもしれない。

<翌日へつづく>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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