ボルト、不調でも勝ち切る絶対王者 ライバルも称賛した底力
わずか0秒01差でガトリンに競り勝ったボルト 【写真:ロイター/アフロ】
やはり強かったジャマイカの英雄
ガトリンとのライバル対決を制し“世界最速男”の称号を守り抜いたボルト 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
一方、33歳のガトリンは上り調子。今年5月には100メートルで9秒74の自己新をマークし、200メートルとともに「今季世界ランキング1位」の看板を背負って北京に乗り込んできた。とはいえ、百戦錬磨のボルトのこと、最後はしっかり調子を合わせてくるかもしれない。ベテランながらキャリアのピークを迎えた男を、世界最速スプリンターはどう迎え撃つのか、世界中の視線はその1点に集中していた。
ところが、いざふたを開けてみても、ボルトはピリっとしなかった。ガトリンが予選を9秒83、準決勝も9秒77と驚異的な速さで勝ちあがった一方で、ボルトは予選・決勝とも9秒96。準決勝にいたっては、スタート直後のつまづきで出遅れ、決勝進出危うしとヒヤリとさせられた。これではボルトとはいえ形勢を逆転するのは難しいのではないか。そう思われても仕方のない内容だった。
それでもやはり、ジャマイカの英雄は強かった。迎えた決勝、先にリードをしたのはガトリンだった。しかし、前への意識が強すぎたか、最後の10メートル強でバランスを崩した。ここまで最高の仕上がりをみせてきた挑戦者のすきを突き、猛追してきたボルトが胸の差で退けた。
「伝説を続けたければ勝つしかない」
ボルトは得意の200メートルでも勝利を目指す 【写真:ロイター/アフロ】
そうよどみなく言い切ったボルト。決して“完勝”と言えるものではなかったが、準決勝から決勝までのわずか2時間5分で心身を作り直し、今年一番の舞台を、今季自己ベストでしっかり勝ち切るというのは、並大抵のことではない。
決勝を走ったライバルたちも、ボルトの底力に称賛を送った。同郷の100メートル元世界記録保持者で、今レース7位のアサファ・パウエル(ジャマイカ)は「ボルトが勝利を収めたことを、すごくうれしく思っている。今季の彼はそんなに戦えていないけれど、こうやって結果を出した。本当に彼のことをリスペクトしているよ」と祝福。銅メダルを獲得したカナダの20歳・アンドレ・デグラセ(カナダ)も「彼は決勝にいくと思っていたし、結果も残した。さすが2度も世界選手権で優勝している選手だ」と敬意を示している。
「ジャスティンは好調だったし、勝つのは簡単ではないと思っていた」と自認するように、今回は薄氷の勝利だった。まさにこの場所で世界新をたたき出した2008年北京五輪と比べても、年々、後続の突き上げは強くなってきている。それでも「伝説を続けたければ勝つしかない」と不退転の決意でこの日まで歩いてきた。
25日には得意の200メートル予選が待っている。「このあとアイシングをして、地元の友達と少し話したら(200メートルの)準備完了だ」。事もなげにそう語ると、世界最速スプリンターは颯爽(さっそう)と会場を去っていった。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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