「夏マラソン」選考に再検討の必要性 金哲彦氏が世界陸上男子マラソンを解説

構成:スポーツナビ

世界陸上北京大会の男子マラソンは19歳の伏兵、ギルメイ・ゲブレスラシエ(エリトリア)が優勝した 【写真:ロイター/アフロ】

 陸上の世界選手権(中国・北京)が22日に開幕。その最初の種目となった男子マラソン決勝では、19歳のギルメイ・ゲブレスラシエ(エリトリア)が2時間12分28秒で優勝した。

 昨年9月に史上初めて2時間2分台を記録したデニス・キプルト・キメット、前世界記録保持者のウィルソン・キプサング・キプロティチ(ともにケニア)、12年ロンドン五輪と13年モスクワ世界選手権を制覇したステファン・キプロティチ(ウガンダ)ら、並み居る強豪がそろう中、19歳の新星が3度目のフルマラソンで世界の頂点に立っている。

 一方、日本勢は藤原正和(Honda)が2時間21分06秒で21位、前田和浩(九電工)は2時間32分49秒で40位と、1997年アテネ世界選手権以来となる入賞者なしとなる惨敗に終わった。

 スポーツナビでは、NPO法人ニッポンランナーズ理事長であり陸上競技・駅伝解説者の金哲彦さんに、レースを解説してもらった。

五輪のようなレースだった

藤原は前半こそ集団についていく積極性を見せたが、後半に失速し21位に終わった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――レースを振り返っての感想は?

 伏兵が優勝し、上位も事前に評判が高かった選手はそれほど入りませんでした。世界選手権では今まで割りと順当に(評判の高い選手が)勝ってきました。一方、五輪では伏兵がよく上位に来ました。そういう意味では五輪みたいなレースだったなと思いました。日本人2人も良いところなく終わったので、残念だなという思いはありますね。

――全体的にスローペースなレースになりました。藤原選手、前田選手も序盤は先頭集団に入っていました。

(最初の)5キロが16分もかかったので、みんな余裕だったのではないでしょうか。日本人の2人も同様に余裕だったはずで、特に藤原選手は積極的に前の方で走っていたので、「これだったら8位入賞もあるかもしれない」という期待はありました。一方の前田選手は早々と離れてしまったので、うまく調整がいかなかったのかなという印象です。

――2人とも後半のペースアップや揺さぶりに対応できませんでした。世界のトップ選手との違いは?

 タイムを見る限り、上位の2人のみが勝負をかけるペースアップをしていましたが、ほかの選手はみんなダメでしたね。どんどん気温が上がっていったので暑さはあったと思いますが、(日本の2人は)その前に何回か揺さぶりがあったところで落ちてしまいました。

 持ちタイムだけを見ると、藤原選手より遅い選手はたくさんいます。また、2位の(イエマネ・)ツェゲイ選手(エチオピア)や4位のルッジェーロ・ペルティーレ選手(イタリア)など、何人かこの暑さの中でシーズンベストを出している選手もいました。日本人選手は2人とも持っている力をまったく発揮できなかったということでしょう。

――レース後に、前田選手は19キロ付近で両足がけいれんし、藤原選手も後半は体が動かなかったと話していました。

 選手はみんなベストな状態だと思って走っています。けれでも、2人だけでなく3人そろってうまくいかなかった(編注:代表に選出されていた今井正人(トヨタ自動車九州)が髄膜炎のため欠場)ということは、やり方を少し見直していかないといけないかもしれませんね。

冬と同じ練習をしてはいけない

前田は足のけいれんもありながら最後まで走り切ったが、結果は40位。夏と冬で練習を変えないと、対応は難しい 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――藤原選手は前半、積極的な良い走りをしているように見えましたが?

 帽子を脱いだ時点でつらかったんでしょうが、その時まだ(レースの)半分くらいしかいっていませんでした。タイムは遅いのに、あの時点で苦しくなるというのは、「練習はこれで良かったのかな?」となりますよね。本人はすごく練習していたはずなので、良い状態で仕上がっていると思って臨んでいる。ただそれはひょっとしたら、夏の大会に向いたものではなく、冬の大会に向いた調整だったかもしれません。そこはしっかり検証したほうが良いと思います。

――冬と夏でレースへの持っていき方が違う?

 冬は走り込みをたくさんやって体を絞っていって、練習の質も量も上げていきます。一方、夏の大会は消耗がすごく激しいので、疲労をうまく残さないで(練習をして)いかないといけません。冬のように練習をやっても走るその日だけでなく、日常生活も暑いわけです。ですから、同じ距離・同じタイムをやったとしても夏場はすごく疲れてしまいます。

――この先、日本が世界と戦っていくためにはどうしたらよいでしょうか?

 12年ロンドン五輪、13年モスクワ世界選手権で入賞した中本(健太郎)選手のように、(日本人が)上位に入っている世界大会もあります。成功例がまったくないわけではないので、選手の選考も含めて成功例をもう一度考えないといけないと思います。

――そのためのアイデアはありますか?

 北京は今回は暑かったですよね。来年のリオデジャネイロ五輪は南半球なので分かりませんが、この時期に走れる選手と、冬は強いけど走れない選手もいます。その辺も含めて検討していかなければいけません。そういう意味で、今回8位以内で入賞したら、リオ五輪内定という条件は正しいことだったと思います。(リオでは)こういった状況で戦うわけですから。ただ、それができなかったということは、そこも含めて選考していかないといけないと思います。
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