世界陸上、大気汚染の影響は最小限に 対応策が奏功、北京に広がる青空

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澄みわたる青空「今日は空気がきれい」

北京国家体育場 (鳥の巣)の前で撮影。今日は快晴で日差しがまぶしい 【スポーツナビ】

 陸上の世界選手権開幕をあすに控える21日朝8時の中国・北京国家体育場。天気はカラっとした快晴で日差しがまぶしい。空が青々としてすがすがしく、遠くまではっきりと望めるほど澄んでいる。かねてから深刻な大気汚染の影響も懸念されていたが、大きな問題とはならなそうだ。

 大気の状況で特に心配されていたのが、「微小粒子状物質(PM2.5)」による人体への影響だ。粒子が細かいため、肺の奥深くに入り込み、呼吸器系や循環器系にダメージを与えるといわれている。北京市内にある在中国米国大使館が独自に計測しているデータ(http://www.stateair.net/web/post/1/1.html)によると、今朝は、1日平均値で10μg/m3(マイクログラムパー立方メートル)前後で推移している。ちなみに、日本の環境省が示す「健康の適切な保護を図るために維持されることが望ましい」とされる環境基準は、1年平均値15μg/m3以下かつ、1日平均値35μg/m3以下。それと比較しても、十分に低い数値だ。話を聞いた地元ボランティアや中国メディアの記者も「今日は空気がきれいだ」と口をそろえる。

 実は北京市では、9月3日に行われる「抗日戦争勝利70周年記念行事」の軍事パレードを前に、20日から大気汚染対策が取られている。自家用車の市内中心部の通行を規制しているほか、工場の一部閉鎖などの措置も講じられている。昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でも同様の対応がなされ、その結果広がった青空は「APECブルー」とも呼ばれた。今回もその対策が奏功した。初日の20日こそ、1日を通じた平均値が30.2μg/m3とやや高かったが、きょうになって値はグッと下がり、「世界陸上ブルー」が広がった。コンディションは整ったと言っても差し支えないだろう。

ある種の矛盾の中で大会を成功させるには?

北京市の大気汚染問題と同様に、5年後の東京五輪では熱中症問題の対策を講じなければならない 【スポーツナビ】

 とはいえ、大事なレースを前に、大気汚染対策で気をもまねばならない選手の気持ちは想像に難くない。「(北京は)空気が悪そう。自分はアレルギー持ちなので」とかつて心配そうに語っていた男子短距離のサニブラウン・アブデル・ハキーム(城西大城西高)のように、不安を抱えたまま現地に乗り込んできたランナーも少なくはないはずだ。大会中もこの澄んだ空気が維持されることを願うばかりだ。

 北京の大気汚染をとりまく一連の件を考えると、昨年11月の北京マラソンでの異様な風景を思い出す。防塵(ぼうじん)マスクで“武装”した市民ランナーが、大気汚染でモヤがかった街中を走る姿は、日本でも大きく報道された。当時の映像と比べても、今の北京は見違えるほどすがすがしい空気が流れている。しかし、もし当局が対策を打たなかったらどうなっていただろうか。健康を害するかもしれない状況の中で、世界最高峰のスポーツイベントが開催されるというのは、どこかちぐはぐしたものを感じてしまう。

 北京世界選手権で浮き彫りにされた問題は、決して対岸の火事ではない。5年後には日本が、熱中症の危険から屋内外での激しい運動は控えるべき状況下で、東京五輪を成功させなければいけない。大気汚染と猛暑。懸念事項は異なるが、ある種の矛盾を抱えた中で大会を成功させなければならない点では共通している。日本は果たしてどんな策を講じるべきか。雲ひとつない青空の下、そんなことをあらためて考えさせられた。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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