夢は世界で戦う“獣医ランナー” 英国の女子大生が挑む世界陸上

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文武両道を貫く22歳の新星

 陸上と獣医学、2つの道を追求する“二刀流”ランナーがイギリスにいる。22日に開幕する世界選手権(中国・北京)の女子1500メートル同国代表の大学4年生・ローラ・ミュアだ。

ダイヤモンドリーグでの大金星で注目を集めたローラ・ミュア。獣医を目指しながら競技を続ける新進気鋭の22歳だ。写真はイギリス選手権のもの 【Getty Images】

 陸上の最高峰リーグ「ダイヤモンドリーグ」の6月ノルウェー・オスロ大会の1500メートルで優勝。2年前のモスクワ世界選手権を制したアベバ・アレガウィ(スウェーデン)ら、格上を退けての大金星を、国際陸上競技連盟(IAAF)も写真つきで大きく報じた。北京行きを前に電話取材に応じたミュアは、レースを振り返って「(優勝できて)本当に最高な気分でした。私にとっては今までで1番大きな勝利。世界のトップ選手と戦えて幸せです」と声を弾ませた。

 ミュアはNHKドラマ「マッサン」のモデルになった日本のウイスキーの父・竹鶴正孝が留学した、スコットランドはグラスゴー大学に通う22歳だ。幼いころからの動物好きが高じて獣医を志し、2012年に国内トップレベルを誇る同大の獣医学部に入学。以来、昼間は週4日、レクチャーや実習をみっちり受けながら、合間を縫って朝と夕方の練習に勤しんでいる。

「勉強をする時は陸上のことを考えなくていいし、逆に陸上をやる時は勉強から離れられる。そんなところが好きなんです。確かに両立は大変ですが、どちらかに絞ろうと思ったことはありません。どちらも好きで追求したいことですから」

 とはいえ、文武両道を貫くのはそう容易なことではない。特に、世界各国を転戦しながら、座学だけでなく、手術の実習や実地研修などをやりくりするとなると、なおさらだ。しかし、「両立させるためには、しっかり計画立てて時間をやりくりすること」と、いとも簡単そうに言う。その時々でやるべきことを明確にし、効率よくこなせるのは彼女がクレバーだからだろう。

北京では6位以内が目標

 そんなミュアが、陸上選手として本格的にブレークしたのは大学に入ってからだ。11歳から首都エジンバラに程近い小さな町の陸上クラブで練習していたが、大学進学を機にグラスゴーに拠点を移した。コーチも変わり、「練習が一気に質の高いものになりました。よりハードな練習を積むことで、一気に記録が伸びた」という。実際、大学1年時にはイギリス室内選手権の1500メートル優勝、世界ジュニア選手権出場、モスクワ世界選手権では800メートル準決勝進出など、次々と結果を残した。昨年からはダイヤモンドリーグに参戦し、着実に世界への階段を上っていった。

前回のモスクワ大会では800メートルで準決勝進出。2度目の世界選手権では1500メートルで6位以内を目指す 【Getty Images】

 そして大学4年になった今年は、先のダイヤモンドリーグ・オスロ大会で快勝、続く7月のモナコ大会では、5位ながら3分58秒66をマークし、念願の4分切りを達成した。この記録は、アテネ五輪で中距離2冠のケリー・ホームズに次ぐイギリス歴代2位の快挙。今季の世界ランキングでも5位に位置する。

 同レースでは、優勝したゲンゼベ・ディババ(エチオピア)が3分50秒07の世界新をマークしたが、「世界記録を目の前で出されて悔しいといったことはありません」と焦りはない。「私は自分の力を出し切って、素晴らしい記録で走ることができたから満足です。それに私はまだ若いですし、これからの選手ですから」との言葉からは、冷静ながらも揺るぎない自信を感じさせる。

 ミュアは将来のビジョンも明確に描いている。自身2度目となる今回の世界選手権では決勝に進出し、6位以内を目指す。3年後に大学を卒業し、アスリートとして活動しながら、パートタイムで犬や猫などの小動物の獣医になる。そして2020年東京五輪では、金メダルを取りにいくつもりだ。

 2つの“夢”の実現に情熱を燃やす新星は、北京でどんな走りを見せてくれるだろうか。可能性に満ちあふれた22歳の挑戦を、心から応援したい。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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