波乱の幕開けとなったコパ・アメリカ ピッチ内外で起こっているサプライズ

勝ち切れなかったアルゼンチン

初戦で2点のリードを守れなかったアルゼンチン。コパ・アメリカ2015は、波乱尽くしの幕開けとなった 【写真:ロイター/アフロ】

 チリを舞台に始まったコパ・アメリカ2015は、波乱尽くしの幕開けとなった。

 リオネル・メッシやセルヒオ・アグエロ、アンヘル・ディ・マリア、カルロス・テベスらを擁するアルゼンチンが2点のリードを得ながら勝利を逃し、コロンビアのラダメル・ファルカオ、ハメス・ロドリゲス、カルロス・バッカらが1ゴールも決められぬままベネズエラに敗れることなど、いったい誰が予想できただろうか。

 中でもアルゼンチンがベテランぞろいのパラグアイと引き分けた一戦は驚くべき展開となった。早々に2−0とリードを広げた時点でアルゼンチンの優位は固く、ハーフタイム前には大量得点への期待まで高まっていたからだ。

 それが後半に入ると、なぜかアルゼンチンの選手たちはパラグアイのパスの出どころにプレスをかけることができなくなり、結果として中盤が間延びして相手に大きなスペースを与えるようになってしまう。通常ならば追う側が攻めに出ることでスペースを与え、リードしている側がそれを利用してカウンターを仕掛ける展開となるはずなのに、逆の現象が生じたのである。

 結局試合はヘラルド・マルティーノ監督が最も恐れていた結末を迎えた。攻撃から守備への素早い切り替えを要求し続けてきた指揮官の努力もむなしく、ボールを失うたびに自陣への侵入を許すようになったアルゼンチンに対し、パラグアイのラモン・ディアス監督はデルリス・ゴンサレス、エドガル・ベニテス、ルーカス・バリオスらを投入。この采配が功を奏し、バリオスの同点弾が生まれたのは終了間際の90分のことだった(試合は2−2の引き分け)。

 それでもウルグアイと対戦した第2節ではセルヒオ・アグエロのゴールで1−0と勝利。PK戦で敗れた前回大会の雪辱を果たしている。

開催国チリが抱える問題

飲酒運転で逮捕されたビダル(中央)。心理的なダメージが心配される 【写真:ロイター/アフロ】

 同じグループBに属する前回王者ウルグアイも、メキシコとともに招待参加した弱小国ジャマイカとの初戦から大苦戦を強いられた。

 ディエゴ・フォルラン、ディエゴ・ルガーノらベテランが去った今大会のウルグアイは、何よりエースのルイス・スアレスを出場停止で欠くために攻撃陣の再編成を余儀なくされている。

 ジャマイカ戦ではセットプレーから決めた1ゴールによって勝つには勝ったが、アルゼンチンリーグでプレーするニコラス・ロデイロとカルロス・サンチェス、スペインから(途中イタリアを経由して)ブラジルへと渡ったクリスティアン“セボージャ”ロドリゲス、スアレスの背番号9を買って出た22歳のディエゴ・ロランらがエディンソン・カバーニの後方に並んだ攻撃陣の出来は散々だった。その傍ら、自慢の守備陣も脆さを露呈し、ジャマイカに数度の決定機を作られていた。

 第2節ではアルゼンチンに敗れたこともあり、パラグアイとの最終戦に決勝トーナメント進出を懸ける。

 グループAでは開催国チリも苦しんでいる。エースのアントニオ・バレンシアを欠くエクアドルとの開幕戦は微妙な判定で与えられたPKで先制、さらに相手ディフェンダーのパスミスから得た追加点によって2−0で勝利を手にすることができた。だがメキシコとの第2戦では攻め急ぎ過ぎてボールを失う悪癖が代償となり、ミスから失点を重ねて勝ち点2を失っている(3−3の引き分け)。

 チリが抱える問題は2つある。1つはフィニッシュのスペシャリストがいないため、多くのチャンスを作りながらなかなかゴールに結びつけられないこと。もう1つは小柄な選手が並ぶディフェンスラインの空中戦の弱さだ。

 攻撃面ではエクアドル戦で2ゴールの起点となったアレクシス・サンチェスの好調ぶりが希望となっているが、ユベントスのアルトゥロ・ビダルはチャンピオンズリーグ決勝を戦った直後のため疲労と、メキシコ戦の翌日に飲酒運転で逮捕された心理的なダメージが心配されている(チリのホルヘ・サンパオリ監督はこの先の試合もビダルを起用する意向を明かしている)。

ピッチ外でも生じているサプライズ

ピッチ外でもサプライズが生じているコパ・アメリカ。果たしてどのような結末を迎えるのか 【写真:ロイター/アフロ】

 グループCではコロンビアがベネズエラの堅守を崩し切れず、サロモン・ロンドンのヘディングシュートによりまさかの黒星スタート(0−1)を強いられた。ドゥンガ率いるブラジルもネイマールへの依存度の高さは相変わらずで、ペルーとの初戦では終了間際の決勝ゴールによりかろうじて勝利(2−1)を決めている。両チームが対戦した第2節ではコロンビアがヘイソン・ムリージョのゴールで1−0とブラジルを破り、グループリーグ突破に望みをつないだ。

 今回のコパ・アメリカで生じたサプライズはピッチ内のものだけにとどまらない。チリ大統領ミシェル・バチェレも招待された開幕セレモニーにて、フアン・アンヘル・ナポウト会長を筆頭とする多数のCONMEBOL(南米サッカー連盟)幹部たちが姿を現さなかったことは大きなニュースとなった。彼らは現在、FIFA(国際サッカー連盟)の汚職スキャンダルに関与した容疑により、インターポールの指名手配まで受けているからだ。

 同様に、今大会のテレビ放映権を保有するダティサ社の重役たちも連絡が取れない状態にある。今大会に加え、2016年のコパ・アメリカ・センテナリオ、19年大会、23年大会までの放映権を買い取る上でCONMEBOL幹部に多額の賄賂を贈った容疑で告発されている彼らは、既に逮捕されているか逃亡中の身にある。

 レベルの均衡と番狂わせ、そして要人たちの不在。波乱の幕開けとなったコパ・アメリカは、グループリーグの佳境を迎えている。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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