為末大が考える体幹トレーニング 流行りでなく、本質を見極めよ

為末大

【Getty Images】

 体幹トレーニング、というものが世に出て随分になるでしょうか。現在では誰もが体幹という言葉を知っていますが、私が小学生のころ、1980年代にはまだそれほど世の中には浸透していませんでした。私の指導者は情報に敏感な方でしたから、これが大事なんだと言われながら、意味も分からずに腹筋、背筋を飽きるほどやったのを覚えています。

「体幹が強い」<「体幹を使える」が重要

 さて、最近は体幹トレーニングの情報がたくさん世の中に出ています。私も現役中はいろんな手法で体幹を鍛えたいと思ってトレーニングをしてきました。何とか体幹を使えないかとトレーニングしていく中で、感じたことがひとつあります。それは「体幹が強いこと」が大切なのではなくて、「体幹を使えること」が大切だということです。

 もちろん、体幹を使えるためには強くないといけませんが、いくら強くても使えなければ意味がありません。使えるというのは、実践の時に体幹がしっかり機能しているかどうかということです。

実践で発揮できなければ意味がない

【坂本清】

 ほとんどのスポーツは立位で行われます。立った状態でパフォーマンスを発揮することが要求されるスポーツにおいては、体幹は立った状態で機能することが大事になります。

 多くの体幹トレーニングは、寝たり横になった状態で行われます。それ自体は感覚をつかむためには大切なプロセスだと思いますが、いつまでもその状態だけでトレーニングをしていると、実際の競技で使うような立位の状態で発揮できなくなってしまいます。感触をつかんだら、実践につなげるようなトレーニングが必要なのです。

走りの中で鍛えることは可能

 あれだけ胴体が太いアフリカ系アメリカンの選手や、ジャマイカの選手ですが、彼らは体幹トレーニングを日本人ほどやりません。もともと体幹が強いということもあるでしょうが、走っている中で実際に体幹を鍛えることが可能だという側面もあります。
 走り終わって、腹筋と背筋がつらいとおさえる姿を見て、体幹トレーニングと実践トレーニングは同じなんだと感じました。

 また、スポーツは静止状態はほとんどありません。どの競技も何らかの動きの中でパフォーマンスを発揮することが重要で、対人競技等はバランスを崩される中でどう力を発揮するかが問われます。
 体幹トレーニングは静止状態で行われることが多いですが、体がしっかりと準備できる状態が用意されることは競技中にはほとんどありません。瞬間的に、無意識に体幹が使えることが実践で使うための条件になります。

何のために体幹トレをやるのか?

「体幹を使える」という感触を初めて得たのは、スクワットをしながら下っ腹に力が入る感触があった時です。昔で言えば、「丹田」と言われる場所をがっちりと固められるようになってから、力の出方がとてもスムーズになりました。手も足もただの道具と感じるようになり、中心でブルンと振ると、手足が勝手に動くという感触を得るようになりました。

 新しいように思える体幹という概念は、すでに日本古来の動きの中で丹田と言われたり、肚(はら)といわれて重要視されてきました。今も昔も、行き着く先は肚をどう決めるか、ということになるのではないでしょうか。
 つい流行りのトレーニングが出てくると本質ではなく型が流行るように思いますが、一体何のために体幹トレーニングをやるのかを考えてみてもいいかもしれません。
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著者プロフィール

元プロ陸上選手。400mハードルで世界選手権で2度の銅メダルを獲得。五輪にはシドニー、アテネ、北京の3大会連続で出場し、2012年に現役引退。現在は、社会貢献活動やメディア出演、執筆、講演などマルチな活動を行っている。

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