スキップで走りがよくなる!? 為末大が教える走りの極意

為末大

【Getty Images】

 今、僕の友人が、トップアスリートが次世代のアスリートに自分の技術や経験を伝えていくという内容のキャンプをやっています。これまでに、アメリカンフットボール、陸上短距離、ハードルをやってきました。世界を舞台に戦ってきた選手に刺激を受け、海外留学をした若者も数名出ています。

 前回のキャンプでは、現日本代表のリレーコーチであり、高校生ながら9秒台に迫った桐生祥秀選手のコーチを今年4月から務める、土江寛裕さんのキャンプでした。キャンプの指導の間、一貫して強調していたのは足の役割の話でした。

速く走るには、ひざと足首は積極的に動かさない

【坂本清】

 よく若い選手に「速く走るにはどうしたらいいんですか?」という質問をされます。これに対し、私たちスプリントを専門にした人間の返答は 「ひざと足首はなるべく積極的に動かさないようにします。特に接地の間は」となります。

 もちろん走っている間は、皆さんも見てお分かりの通り、大きく足を前後に動かします。その事を股関節進展というのですが、股関節の部分はとても大きく動いていて、トップ選手ともなると前後に大きく開きながら、かつ高速で足を動かしています。

 ところが、ひざから下はどうかというと、動かすというよりもむしろ股関節が大きく動くのに振り回されている事はあっても、自分から積極的に動くという事はやりません。非常に受動的な役割をします。

カール・ルイスらトップアスリートが与えた衝撃

【Getty Images】

 1991年の東京世界陸上でカール・ルイスを含めた世界のトップアスリートたちが日本にやってきました。これぞチャンスとばかりに、陸上界の研究機関が彼らトップアスリートの動きを解析した事があります。
 1、2年後でしょうか、陸上の雑誌に載った結果は私たちがそれまで習ってきたものとは随分違うものでした。

 足が持つ3つの関節、足首関節、ひざ関節、股関節。その内2つの足首と、ひざはパフォーマンスが高い選手ほど接地中にほとんど動いておらず、パフォーマンスが低い選手ほど大きく動いていたという事が分かりました。

 それまで私たちが習っていたのは、足首とひざを大きく使って地面を押すという事だったので、それは中学生の私にはとても衝撃的な話でした。半信半疑ながら、しかし一方で、うっすらと実感もあった話なので、徐々にそちらに向けて走りを改善していきました。

走る=ジャンプ動作の連続

【Getty Images】

 走るという行為は、実はほとんどジャンプ動作の連続です。歩行とはそこが全く違います。例えばトランポリンは、足首やひざを使ってジャンプするよりも、それらを固めてトランポリンに弾いてもらった方が大きく跳べます。

 実は人間の足にも弾性があり、足を固めて着地すると人間の足も勝手に弾んでくれるのです。そして足の弾性を使って弾む方が筋肉を動かさない分、エネルギー効率もよく、かつ出力も大きいのです。

足は空気が入ったバランスボールのようなもの

 つまり、私たちの足はうまく使えば空気がパンパンに入ったバランスボールのような役割を果たし、上から上半身でつぶせば、その溜まったエネルギーでポーンと身体を弾いてくれて走っているのです。決して足を積極的に動かして走っているわけではないのです。

 理屈はこうなっているわけですが、じゃあ一体どうしたらそうやって走れるのか? これはなかなか時間がかかる話ですが、少しだけヒントをお話しすると
・時々スキップをすること
・足を道具だと思うこと
の2つじゃないかなと思います。

 スキップは自分の足で弾む感覚をつかみやすいので、繰り返すとだんだん走りがよくなっていきます。足を意識し過ぎると逆に足が変な動きをしたり、こわばってしまうので、むしろ足は道具なんだと考えて走る方が自然な動きになります。

 ぜひこの2つを意識して、皆さんも弾む走りを手に入れてみてはいかがでしょうか。
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著者プロフィール

元プロ陸上選手。400mハードルで世界選手権で2度の銅メダルを獲得。五輪にはシドニー、アテネ、北京の3大会連続で出場し、2012年に現役引退。現在は、社会貢献活動やメディア出演、執筆、講演などマルチな活動を行っている。

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