メッシもミュラーもゼロトップではない? 歴史から見る変わったCFの戦術的な役割
ゼロトップタイプの選手とは?
ゼロトップタイプの選手と言われるドイツのミュラー(写真)。ただ、同じタイプだと言われるメッシとは戦術的な機能性がやや異なる 【写真:ロイター/アフロ】
最も有名なのはリオネル・メッシだろう。アルゼンチンでは2トップの近くで自由に動くスタイルだ。アルゼンチンで「エンガチェ」と呼ばれる背番号10の役割である。バルセロナでもほぼ同じ動き方だが、こちらは偽9番の呼び方が定着している。メッシの前のゼロトップ代表は、ローマのフランチェスコ・トッティだった。ただし、細かくみればトッティとメッシでは戦術的な機能性がやや異なり、トッティはゼロトップというより優れた1トップというほうがふさわしかった。ミュラーもまた少し違った動き方をしている。
昔からいる少し変わったCF
ただ、CFといっても1つのタイプとは限らない。頑健で背が高く、ゴール前に張っていて、クロスボールを足や頭でたたいて得点するのが典型的なCFと思われがちだが、ほかにもいろいろなタイプがいた。中盤に下りてゲームを作ったり、サイドへ流れてクロスを供給する、今日のゼロトップ型のCFはけっこういたのだ。
1930年代にオーストリア代表で活躍したマティアス・シンデラーはニックネームが「紙男」だった。細身の技巧派だったからだ。シンデラーのポジションはCFで、こういうタイプもそれなりに存在していた。50年代のスーパーチームだったハンガリー代表のCFナンドール・ヒデグチも技巧派で、中盤に下りてスペースを作る動きはチーム戦術に組み入れられて絶大な効果をあげた。60年代はレアル・マドリーのレジェンドとなるアルゼンチン人、ディ・ステファノが「ヒデグチ型」。70年代は「ディ・ステファノの再来」と呼ばれたクライフ。80年代ではフランス代表におけるミッシェル・プラティニがいま風にいえばゼロトップだった。
こうしてみると、歴代のスーパースターはことごとくゼロトップだったとさえいえる。ゲームを作り、多くのアシストやゴールで勝利に貢献するエース。ペレやディエゴ・マラドーナがゼロトップと呼ばれないのは、彼らより前に別のFWがいたからにすぎず、資質的にはゼロトップ型だった。
走るミュラーと走らないメッシ
DFブロックの中でボールを受けるメッシ(写真)は運動量が少ない。一方のミュラーは走り込みに特徴があり、よく走る 【写真:ロイター/アフロ】
バルサでは両ウイングが最前線、トップ の位置にいる。メッシはそこよりも少し後方を起点に動き、前向きにプレーできる位置を探してパスをもらい、ドリブルで仕掛けていく。だから本当は2トップなのだが、2トップが中央におらずCFではないのでメッシのゼロトップと呼ばれているわけだ。
ドイツ代表でのミュラーはゼロトップというよりCF。左右に流れたり中盤へ引くこともあるが、トップの位置を起点に動いている。ミュラーはメッシのようにドリブルで仕掛けていくタイプではなく、ペナルティーエリア内への走り込みでラストパスを引き出してフィニッシュする。フィニッシュの形はハンマー型のCFといえる。ただ、ミロスラフ・クローゼが出場するときは、ミュラーは右サイドを起点とした動きになり、流動的な右ウイングに変わる。
メッシとミュラーはゼロトップとしては対照的だ。メッシの走行距離はGK並で、本当に運動量が少ない。相手のディフェンスブロックの中でパスを受けて前を向ける場所は、人と人の間の小さなスペースしかない。走りすぎると別のDFの近くに入ってしまうから、あまり大きく動いても意味がないのだ。一方のミュラーは非常に行動範囲が広く、攻守にわたってよく動く。ミュラーはDFラインの裏への走り込みが特徴であり、クロスボールが来るポイントへタイミング良く合わせるのもうまい。どちらも空いているポイントめがけてマークを振り切って動くので、走る距離も長めだ。
形のうえではアルゼンチンもドイツもゼロトップではないが、ゼロトップ型のアタッカーであるメッシ、ミュラーが得点源になっている。
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