「スポーツ体験を増やすのが重要」 為末大が語る、東京五輪成功への道

スポーツナビDo

【坂本清】

 昨年9月、1964年以来、56年ぶりに東京で五輪開催が決まった。これから6年間にわたり、日本国内ではスポーツ熱が高まっていくことが予想される。

 現役時代から街中での「ストリート陸上」を開催するなど、常に新しいスポーツの見方を提案。最近では、小学校で子どもたちに体験授業なども行っている為末大さんは、東京五輪成功に向けて「スポーツ体験を増やすことが重要」と語る。

大人も子どもも、楽しければ続ける

【坂本清】

「子どもたちに授業するときは、余計なことを言わないのが一番なんです。正しい姿勢を説明しようと思ったら、1時間ずっと話せるんですけど、そんなことは後でいい。

 たとえば、英語が好きになったら文法とかは後でどうにでもなるけど、英語が嫌いになっちゃうと、全部意味がなくなっちゃうじゃないですか。だからとにかく一番大事なのは、どうやってそのことを好きになるかなんです。

 だから最初の設計は重要だと思います。『それは間違えている』とかは決して言わない。何が良くないかではなく、何が良いかということをずっと言う。これがどんどん伸びていくと、結構子どもたちも楽しくなってきて、ドライブが掛かったりしていくんですよね。

 それは大人でも同じだと思っていて、楽しければ続けるんです。続けば、次は技術とか知識を知りたくなる。だから、何はともあれ、最初は着火じゃないかなと。体験して、楽しさを知ってもらって、モチベーションに火をつける。あとはテクニックの話なんで、何とかなると思うんです」

すごさが分かるとスポーツの見方が変わる

【Getty Images】

 新国立競技場建設の話題など、これから五輪本番に向け、インフラ整備が急ピッチで進められていくだろう。為末さんは、スポーツの文化的な価値を高めるための、1つの提言をしてくれた。

「僕はぜひ、五輪選手がやる競技場を作るというのじゃなくて、スポーツという文化を作る方に振ってほしいんです。東京中にあるスポーツの施設を全部開放しちゃって、どうぞご自由にと。小学校の放課後の校庭も開放して、サッカーやってくださいと。とにかくスポーツ施設をぼんぼん開放して、みんながスポーツを親しむっていうことが、結果として一番本質的にスポーツにつながると思うんです。

 陸上の100メートルとか、サッカーの人気が日本で高いのって、すごさが分かることも結構大きい気がするんです。大体みなさん、50メートルとか走った経験があるので、100メートルのタイムがどれだけ速いかって分かるじゃないですか。サッカーもみんな体験しているから、あの技がどれだけすごいとか、何となく分かる。だから、やっぱり体験が大きく影響するんじゃないかなと思うんです。

 ソチ五輪を見ていて、正直スキーのジャンプはすごいと思うんですけど、どの程度すごいのかが、よく分からないんですよね(笑)。もう競技自体がすごすぎて……。だから体験をとにかくしてもらうことによって、すごさの実感を持つというのは大事なんじゃないかなと思います」

まずは、個人の体を動かしていこう

【Getty Images】

 今後の日本社会において、スポーツがどう社会に貢献していくのか。最後に、為末さんは「まずは個人が動き出そう」と、一般の方々にメッセージを送った。

「現役を引退してから、一般の会社によく行くんです。そうすると、元気な会社と元気じゃない会社があるんだと思って。流れがある会社、動きがある会社は、結局元気な会社だと思うんです。人が動いている会社は元気で、元気がない会社は人の動きがあまりないんですよね。会議室ひとつでも、人が出たり入ったりが激しい会社ほど、いわゆる元気だと、世の中でいわれている会社が多い気がします。

 動きがあるというのは、コミュニケーションに動きがあるとか、流れがあるとか、人の動きがあるとか。街もそうですけど、人間の体も、とにかく新陳代謝が起きて、動きがあって流れがあると、結局、健康なんじゃないかと思うんです。日本はこれから高齢化社会を迎えて、動きが鈍くなると思います。町も人も組織も一緒だと思うんですけど、その動きをどうやってスポーツで活性化させるかというのが、個人的にも興味があるところですね。

 だから、まずは最少単位である個人が動き出そう、個人の体を動かしていこうと言いたいです。結果として、それでいろんなものが動き出せばいいじゃないですか。スポーツ業界はトップ選手を作っていくことも大事ですけど、比率を少し減らして、その余った力を一般の人たちのスポーツするという方向に、ぜひ向けてほしいと思います」
(取材・文:栗原洋/スポーツナビ)
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著者プロフィール

習慣的にスポーツをしている人やスポーツを始めようと思っている20代後半から40代前半のビジネスパーソンをメインターゲットに、スポーツを“気軽に、楽しく、続ける”ためのきっかけづくりとなる、魅力的なコンテンツを提供していきます。

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