ミスも想定 羽生チームの金メダル戦略=澤田亜紀のフィギュア男子FS解説
フィギュアスケート男子で金メダルを獲得した羽生結弦。左は銀のパトリック・チャン、右は銅のデニス・テン=ソチ 【共同】
2位は世界選手権3連覇のパトリック・チャン(カナダ)でフリー178.10点、合計275.62点。3位はカザフスタンの20歳、デニス・テンでフリー171.04点、合計255.10点。
また日本勢では、町田樹(関西大)がフリー169.94点、合計253.42点で5位、前回バンクーバー五輪銅メダルの高橋大輔(関西大大学院)はフリー164.27点、合計250.67点で6位だった。
スポーツナビでは、5つの3回転など力強いジャンプや氷上での明るい笑顔が持ち味で、2007年四大陸選手権、04年全日本選手権で4位に入るなどの成績を残した澤田亜紀さんに、男子FSを解説してもらった。
4回転転倒も想定済み 羽生チームの準備
でも今日はほとんどの選手がミスをしていました。氷が軟らかいと、足をとられてスピードが出にくくなることがあります。スピードが出にくいと、いつもよりも足を動かしてスピードを出さないといけません。氷のせいにはしてはいけないし、あくまで想像ですが、そういうこともあるかも知れないです。
羽生選手はプログラムの冒頭に2本の4回転を入れていますが、1本目は転倒、2本目は着氷させました。公式練習では、1本目はジャンプに入るタイミングを確認しているくらいで、2本目だけ曲に合わせて練習をしている様子でした。
それを見た感じだと、1本目はチャレンジと割り切って、2本目からきっちりとノーミスでやろうと意識して練習してきたのではないかと思いました。大技のジャンプは、だいたい演技の冒頭に入れますが、2本のうち1本目はチャレンジの技が多いです。もちろん成功した方がいいですが、失敗しても気持ちが切り替えられるように、悪い場合、失敗するパターンも考えて練習してきたのではないでしょうか。
羽生選手を指導するブライアン・オーサーコーチは五輪で2度銀メダルを獲得しています(1984年サラエボ、88年カルガリー)。教える方になって、ああすれば良かった、こうすれば良かったというのもあるので、そういう失敗を前提とした練習や、五輪での経験の面など伝えていることもあるかもしれませんね。
フィギュアの採点は大きく分けて、技術点と演技構成点(芸術性などを評価)の2つがあります。羽生選手とチャン選手の差を採点表で見ると、演技構成点ではチャン選手の方が勝っています。羽生選手は技術点で上回った分、勝ちました。
技術点は、元々設定している演技構成の基礎点(※注:何も評価がつかなかった場合の、ジャンプなど各要素自体の得点の合計)でも羽生選手の方が上回っています。ミスをすることも前提とした上で、得点が1.1倍になる後半に、得点を多く稼げるジャンプを組み込んだ。この戦略も良かったんだと思います。
少しずつミスを重ねてしまったチャン
銀メダルとなったチャン。演技構成点では羽生を上回ったが…… 【写真は共同】
前半がすごく良かったのですが、後半になるにつれ、気迫、勢いが落ちて、ステップにも疲れが見えていました。最後のスピンもヨタヨタとしていて。チャン選手はスピンの最後に両足回転のスピンを入れています。両足で回ると、氷に引っ掛かってしまって失速することもありますし、重心をどこに保つかといった面で難しいんです。でも、難しいからこそ評価もされるんですが、今日のチャン選手は両足どころか片足でも軸が崩れてしまっていました。
他の部分で崩れてしまっても、演技の最後がバシっと決まればジャッジに対して印象良く終われますが、それができなかったのも残念でしたね。
羽生選手も序盤の転倒やバランスを崩したフリップなどで減点されてはいますが、他の要素でコツコツと加点をもらって貯金しました。逆にチャン選手は少しずつ得点を落としてしまった。小さいことの積み重ねが得点の差、結果に出たんだと思います。SPなら、規定要素が「7」と少ないのでごまかしが効くんですが、FSは「13」あるので、その積み重ねが大きくなりました。